車もチーズも、ものづくり。里山の豊かさを求めて。是本健介さん | ボスケソ・チーズラボ

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「チーズを自分で作ってみたい。」

牧場主でなくとも、チーズや料理が好きな方なら、誰しも一度はそういう思いを抱くことはあるかもしれません。でも、日本で今、ライフワークとして「チーズ職人になる」という道を選ぶ人は、まだまだ多くはありません。

チーズに惚れ込む一方、縁あって長野の佐久の地を訪れるなかで、「本当の豊かさとは何だろう?」という想いや「いかに日本の里山の荒廃を食い止められるか」という課題を胸に、チーズ職人に転身した是本健介(これもと けんすけ)さん。

F1や未来型の燃料電池車などを開発してきた日本のトップレベルのエンジニアならではの、チーズ作りとは?

千曲川沿いの緑豊かな地で、2016年12月に自ら工房を立ち上げた「Bosqueso Cheese Lab.(ボスケソ・チーズラボ)」是本健介さんにお話を伺いました。

 

チーズとの出合い、原点

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まず、チーズが好きになったきっかけは何だったのでしょうか?——

もともと料理が趣味で、チーズという食材に興味をもつようになったのが始まりでした。15年ほど前に、カルチャーセンターでナチュラルチーズのセミナーを受講したのですが、その時の講師が、村山重信さん(チーズプロフェッショナル協会 現・名誉会長)。ナチュラルチーズの美味しさとその話の面白さにすっかりハマってしまったのがきっかけです。

ちなみに、個人的にはどんなチーズがお好きなんですか?——

フランス・ブルゴーニュ地方で作られているウォッシュタイプの「ラングル」は、好きであると同時に目指したいチーズのひとつです。あとは、スペインの羊乳製の「マンチェゴ」が好きです。将来は羊も飼って、その羊乳でチーズを作ってみたいと思っています。

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写真右上のオレンジ色のチーズ「KASUGA」は、工房からほど近い春日温泉の温泉水で表面を拭って熟成させるウォッシュタイプのチーズ。フランスの「ラングル」を彷彿とさせるものがあります。

 

ボスケソを立ち上げられて、まだ1年も経っていないのに、いろいろな種類のチーズを作られていますよね?——

そうですね。季節やその日によって作るものは異なるのですが、数で言えば全部で13種類。午前中に原料となるミルクを調達して、その日の予定のチーズを作って、熟成管理などもしていると深夜まで・・・という日も。最近は製造のサポートスタッフを時々お願いしていますが、それでも大変は大変です(笑)

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料理もお得意な是本さん。何か手軽に作られるもので、ご自身のチーズを使った一品をご紹介いただけますか?——

乳酸菌主体で凝固させて、酵母で熟成させた「MIMAKI」というチーズで作ったカスクルートをご紹介します。MIMAKIは、サンドイッチとして地元の食材と合わせる食べ方が一番かなと思います。

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肉や野菜と相性が良いので、パンはバゲットかライ麦パンで、具材は生ハムかチキンのスモーク、野菜は葉物、根菜どちらでも良く、さまざまな組み合わせを楽しむことができます。この時は、スモークチキンとアイスプラントを一緒に挟み、アクセントにレモンバーベナも添えました。

このカスクルートは「軽井沢美食マルシェ」というイベントで、生産者仲間とのコラボ企画として「メゾン・デュ・ジャンボン・ド・ヒメキ」の藤原氏のプロデュースのもと、展開した例になります。

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MIMAKI (Kimoto)は、乳酸菌主体で凝固させて、酵母で熟成させた牛乳製のチーズ。千曲川最上流の蔵元「黒澤酒造」の蔵付き乳酸菌を用いて発酵させています。

 

エンジニアからチーズ職人の道へ

食べ手ではなく、作り手をめざしたきっかけは何だったのですか?——

食べ手として国内外のさまざまなチーズを食べるうちに、同じようなチーズでも作り手によって全く味わいが異なるということに気づきました。その要因が、原材料はもとより、製造過程にあるということでさらに興味を持つようになったんです。

エンジニアという仕事柄、その興味を深堀りしているうちにすっかりハマってしまい、自分の手で理想のチーズを作ってみたいと思うようになっていました。

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是本さんが開発した車の写真より。F1マシンもそのひとつ。

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災害時でも平時でも有効な燃料供給を考慮した、未来型の燃料電池車「CLARITY Fusel Cell」の開発も。

 

エンジニアとしてのものづくりと、チーズづくり。どんな共通点がありますか?——

まず、原材料である生乳の品質がシーズンを通じて(細かく見ると毎日)変動するところが、100%原材料の品質が安定している自動車作りとは異なるところです。

しかし、ものづくりの考え方と評価の仕方は全く同じと言えるくらい、共通しています。

「設計→実験→計測→設計変更→実験…….→計測→完成品」という最適化プロセスを回し、いかに最短で目標性能を満たす製品を作れるか。ミルクの品質や特性を把握し、温度、湿度などのさまざまな可変要素を調整し、見極めながら作っていくという、チーズ作りのプロセスは、本当に基本は同じなのです。

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この長野県の佐久、しかも市街地からは車で30分も離れた春日という土地に、工房を構えられたのはなぜですか?——

10年ほど前から、土日や休みは、佐久にある妻の祖母の家が空き家となっていたので、そこで過ごしていたんです。最初はその近くに建設しようと思いましたが、周りはすべて農地で、さまざまな法律の関係上、それを解除するには2〜3年かかるとのことでした。

そこで、その頃から通っていたこの春日温泉、望月馬事公苑の近くに空き地があり、細長い土地なので将来の拡張も可能かと思い、ここに決めました。標高約900mで、夏の夜は川べりには蛍が、空には星が輝く山あいの地。この春日に通ううちに、たくさん仲間ができたのも決め手ですね。

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ご縁があって出合った場所。でも会社員を退職し、新規事業として、チーズ工房を立ち上げるにはご苦労も多かったと思います。製造研修や設立のための資金調達などは、どうされたのですか?——

製造については、会社員のうちに学びながら、経験を積んでいきました。長期休暇の際に、北海道の共働学舎新得農場へ短期研修に行って製造を体験し、週末は、自宅のキッチンでチーズの試作を繰り返す・・・そんな感じでした。

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立ち上げの資金は、退職金を含む自己資金、ファンドから出資金、両親からの出資金、県の創業者支援融資を受けました。「株式会社ボスケソ」という法人組織にしたのは出資を含め、資金調達がやりやすいと思ったからです。

そういえば「ボスケソ」って、どんな意味があるんですか?——

オリジナルの造語です。スペイン語で「bosque(ボスケ)」は森や里山のこと、「queso(ケソ)」はチーズを意味します。佐久に通うようになり、いろいろな方と知り合いになるなかで、「本当の豊かさとは何か」「いかに日本の里山の荒廃を食い止められるか」ということも考えるようにもなりました。

チーズという食を通じて、自分に出来ることはないだろうか。

家畜を活用した環境保全、その家畜の乳と地元の高品質な特産品を掛け合わせ、地域の活動として広げていくことができたら、と。そんな土地のチーズを作っていきたい。「ボスケ+ケソ=ボスケソ」にはそんな想いもこめています。

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地域とともに、未来の食を考える

佐久というエリアでの食のつながり。具体的には、どのような取り組みをされているのですか?——

佐久地域には「39BAR(サクバル)」という食に関する職人の集まりがあります。そのメンバーは、パン屋、生ハム屋、料理人(フレンチ、イタリアン、和食)、有機農家、日本酒酒蔵杜氏・経営者、ソムリエ、淡水魚養殖・加工まで多岐にわたります。私は、キッチンでチーズの試作をしている3年前にその会に誘ってもらいました。

今では、佐久地域を超えたメンバーも加入し、東信州全体が盛り上がるきっかけとなっています。2ヶ月に1回のペースで職人たちの情報交換の集まりがあり、年に2回ほど、地元のお客様を招き、職人たちの料理、商品を食べていただく機会を持ち、地元に根付いた活動を行っています。

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この会の中で、新商品のアイデアをもらえるのも大きな利点です。先ほどご紹介した「MIMAKI」も、この会で隣の佐久穂町にある「黒澤酒蔵」の経営者と話しているときに、蔵つき乳酸菌を使ったチーズを作ろうという話題になったのが開発のきっかけです。

彼らの食に対する情熱と「食を通じてこの地域を盛り上げたい」という想いが、独立する後押しになりました。各々の職人が仲間の食材とコラボし、アピールすることで、佐久地域の食がさらに注目を集められるよう、私も尽力したいと思っています。

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インタビューを終えて

東御市「スプレンドール・小林牧場」の牛乳、佐久市の独立行政法人家畜改良センター「茨城牧場長野支場」の山羊乳、そして、春日温泉の温泉水や「黒澤酒蔵」の蔵つき乳酸菌・・・地域に根ざした食材やコミュニテイを礎に、是本さんの挑戦はこれからも続いていきます。

佐久の豊かな恵みとそれを享受できる人々の輪が広がっていく。そして、そこにはチーズがある。これからの是本さんのご活躍がますます楽しみです。

 

interviewed by 佐野嘉彦 (CHEESE Media 編集長)

 

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Bosqueso Cheese Lab.(ボスケソ・チーズラボ)
是本健介さん

福岡県出身。株式会社本田技術研究所(ホンダ)でF1や燃料電池車、飛行機関連の開発エンジニアを経て、2015年12月、株式会社ボスケソを設立。ホンダ在職中に、NPO法人チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナル資格を取得のうえ、専科セミナーで研鑽を積み、同協会主催の国産ナチュラルチーズコンクール「Japan Cheese Award」の実行委員も務める。2016年2月、試作品にて第1回関東チーズコンテスト熟成1ヶ月以下部門賞を受賞。同年12月に、現工房をオープン。

https://www.facebook.com/bosqueso/

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