チーズとつながる発酵。麹(こうじ)の蔵へ | 川口糀店(神奈川)

チーズは、発酵食品のひとつ。健康志向の流れもあって、発酵食品は近年ますます注目を集めるようになってきました。

でも「日本の発酵食品のこと、どれぐらい知ってる?」と訊かれると、「うーん・・・」と考え込んでしまう方もいるはず。日本の伝統的な調味料である味噌や醤油、日本酒にみりん、酢はもちろん、納豆や漬物やかつお節なども、発酵食品。そう、言わば日本は「発酵大国」なのです。

発酵食品の掛け合わせは、さらなる美味しさを生んでいきます。

チーズの楽しみを増やしていくために、日本人の食生活に欠かせない発酵食品のつくり手を巡る・・・。初となる今回は、日本の発酵食品のもととも言える「麹」の蔵を訪ねました。(取材:2017年10月 ※2017年末をもって閉業されます)

 

「麹」と「糀」

今回訪問したのは、横浜市瀬谷区の住宅街にある「川口糀店」。創業文政元年、200年以上の歴史を持つ老舗です。

ここで「あれ?」と思った方もいるでしょう。「麹と糀、漢字が使い分けされているの?」と。

どちらも「こうじ」と読みます。一般表記では「麹」を使いますが、米麹の場合、「糀」を使う場合もあります。店名や商品名などで「糀」を使用されるケースが多いようです。

 

麹(こうじ)とは?

最近は「塩麹」や「甘酒」のブームで「麹」を身近に感じる方も多くなってきましたが、そもそも麹って何なのでしょう?

麹とは「穀物を蒸して麹菌を繁殖させたもの」。穀物が米の場合は米麹、麦の場合は麦麹、大豆の場合は豆麹となります。そのため、例えばどんな麹を使うかで味噌の種類も呼び分けられます。米麹と大豆と塩を使って作った味噌が「米味噌」、麦麹を使うと「麦味噌」、全部大豆で作ると「豆味噌」となるのです。

味噌や醤油、日本酒、米酢もこの「麹」がないと作れません。和食を支えてきたのは「麹」と言っても過言ではないかも、という気持ちになります。

麹菌は、微生物でカビの一種です。カビと言うと悪いイメージを持つ方もいますが、私たち人間の役にたつカビです。チーズでもカビの力で作られているものがありますよね。

麹作りは主に冬場に行われます。今回訪れた川口糀店の場合は10月から6月ごろまで。取材で訪れた10月上旬は、今期2回目の麹作りの初日でした。

朝8時にお伺いすると、すでにお店の外にまで、お米のいい香りが。9代目の川口恭(たかし)さん(42歳)が迎えてくださいました。川口さんはすでに朝5時から作業をされているとのこと。

まずは米を洗って浸漬し、水気を切った後、大きな甑(こしき)で蒸しあげます。この甑は、高級なサワラ材で作られたもの。川口さんこだわりの道具です。

麹を作る場合、通常は主食用ではなく、米菓や味噌などの原料に使われる米を使うことが多いようですが、こちらでは京都丹後産の食用一等米を使用されています。「食べて美味しいものじゃないと」という川口さんのこだわりです。全国の米を食べ、生産地を訪ねて、この農家さんの作ったこの品種!と惚れ込んだものを使っているのだそう。

そして米の蒸し加減が、麹作りの大きなポイントになります。

中まで火が通っていながら、柔らかくなりすぎず、表面がべちゃべちゃしていないことが重要。普段食べている白米よりもずっと固めです。

蒸しあがった米は大きなスコップで掘り出し、穀箕(こくみ)で受けて、布を広げたマットの上に運びます。これを、かい棒で広げ、熱を冷まします。

両手を使って、塊をほぐすように、下から上へ米を持ち上げ、一粒一粒にばらけるように作業します。私も少しお手伝いさせていただいたのですが、蒸しあがったばかりの米は熱くて、なかなか大変な作業です。

 

麹作りの肝である「種つけ」

 

ある程度米がばらけたところで、種麹(たねこうじ、もやしとも言う)をまくのですが、ここで大切なのは温度。高すぎても低すぎてもいけません。麹菌は生き物ですから、活発に活動する温度に設定する必要があります。川口さんのところでは32〜33℃を目処に、40℃は超えないように調整されています。

ふった種麹が一粒一粒の米の表面にまんべんなく着くように、さらに手で混ぜていきます。また、バラバラにするために、機械を使うこともあります。

その後、ひとまとめにして、毛布などで包んで保温します。

温度計をさしておき、こまめに温度をチェックします。麹菌が活発に活動すると発熱するので、温度が高くなれば、包みを開いて、混ぜて温度を下げ、と調節します。

そのように温度をコントロールしながら麹菌を繁殖させて、約3日という時間をかけて「麹」は完成するのです。

 

こだわりの味噌も

川口糀店では、この麹を使って味噌も作っています。味噌に使う大豆も米と同様、厳選されたもの。希少な厳選した国産大豆を使っています。

店での「味噌作り教室」のほか、地元の幼稚園や小学校などに出向き、子供達と一緒に味噌作りもされているとか。

「園児がひとり2キロの味噌を仕込んで、半分は卒園時にお母さんにプレゼントし、半分は下の学年の子供が食べるんですよ」と笑う。

老舗の9代目である川口さんですが、学生時代は他にやりたいことがあったそう。麹屋という家業に目覚めたのは、子供が生まれた頃とおっしゃいます。

「子供に安全で良いものを食べさせたいという気持ちから、より良い麹を作りたいと追求を始めました。素材の吟味や麹室の徹底的な清掃もそのひとつ。これまで常識とされていたことを、疑ってみる、新しい方法を試してみる、その中で一番いいと思われるものを採用して今のやり方になりました。」

また工房内で目に留まったのが、昔ながらの道具の数々。穀箕や、米を洗う桶やざる、ブラシ類も職人さんの手仕事によるもの。

「良いものを残したい。プロの職人さんの仕事を残したい。そのために大きなチームとして一緒に仕事が出来たらうれしい」と川口さん。「道具や素材を提供してくれている人を大切にしたい」とも。

今後の展開は?と訊くと「減産しても、より良いものを作りたい」とのこと。

「良いものを作る」という軸がぶれない川口さん、今後も目が離せません。

(注:取材は2017年10月に実施。その後、川口さんのご意向により、2017年末をもって閉業されることとなりました。新たなご活躍が楽しみです。)

 

 

川口糀店

〒246-0005 神奈川県横浜市瀬谷区竹村町24-6
※2017年末をもって閉業予定

 

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yurika-oowada
いこま ゆきこ
料理家、食のコーディネイター。いこまゆきこ お料理教室主宰。
企業での勤務後、エコールキュリネール国立(現・エコール辻東京)にて学び、料理研究家のアシスタント等で経験を積む。2002年より料理教室をスタートする。
日本発酵文化協会 上級認定講師(発酵マイスター・発酵プロフェッショナル取得)
企業や雑誌へのレシピ提供、テレビ出演、「発酵・発酵食品」「食育」「テーブルコーディネイト・器」「地方の特産品作り・活性化」などに関する執筆や講演。食材の産地を訪問するツアーや、発酵蔵巡り、都市と地方をつなぐ活動にも注力している。
著書に「おうちで喜ばれるにほんのおかず」(SBクリエイティブ)
http://ikomayukiko.com
http://ameblo.jp/shiawasegohan/
https://www.facebook.com/yukiko.shiawasegohan

 

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