「全部の味が生きる」素材を活かす“かけ算”の魔法とリコッタ|福岡「清喜」水田正大さん

福岡・平尾や六本松エリアを中心に、「清喜」や「Mon an」など食通たちを唸らせる人気店を手掛けるRicebirdの水田正大氏。フレンチからエスニックまで幅広いバックグラウンドを持つ彼がたどり着いたのは、「素材の味を最大限に引き出す」という極めてシンプルで奥深い哲学だ。

今回、水田さんへの取材の中で飛び出したのは、極上のお肉と「リコッタチーズ」の意外な楽しみ方。思わず家でも真似したくなる、プロならではの美味しい方程式をお届けする

カウンター越しに語る食への熱い想い。水田さんの表情には、料理への真摯な態度が表れる。今日はどんな話が聞けるかと心が弾む。

「全部の味が生きる」。混ぜない美学が生む魔法

「え、、ほんとにリコッタだけなの? 最高においしい」

『おいしいでしょ? お肉に合うでしょ?』

取材中、思わず漏れた感嘆の声に、水田さんは我が意を得たりと笑顔を見せた。彼が提案するリコッタチーズの食べ方は、私たちが想像する一般的なチーズ料理とは少し異なる。

これぞまさに、肉とリコッタのハーモニー。

「結局、僕はチーズに何を合わせても美味いと思っているんです。柑橘にも合うし、合わない野菜もない。もちろんお肉にも。でも、ポイントは塩は『最後にかける』ことなんですね。絶対混ぜない。そうすることで全部の味が生きるんです」

水田さんの料理哲学の根底にあるのは、「混ぜすぎず、各要素を分離させて活かす」という考え方。あらかじめチーズに味を練り込んでしまうと、チーズ本来の味が損なわれるような感覚があるという。

それは日本の日常的な食卓にも通じている。

「冷奴に醤油をかけるのと同じです。豆腐に醤油を練り込んでしまったら、それぞれの味がぼやけてしまう。白和えも同様に、具材に味を付けずに上からごま塩をかける。あらかじめ混ぜるのではなく、食べる直前に口の中で合わせることで、初めて味が完成される」

思わず「なるほど!」と納得の哲学。チーズ作りにも通じるものも多く会話は止まらない。

肉でチーズを「ぬぐう」。計算された引き算の極意

その哲学を体現するのが、肉料理とリコッタチーズの組み合わせだ。味が濃すぎないナチュラルなチーズは、肉料理に爽やかさを加え、素材の味を飛躍的に引き立てる。

「滑らかになるまで混ぜたリコッタチーズの上から、美味しいお塩とオリーブオイル、そしてレモンをサッと絞るだけ。それを、お肉で直接ぬぐって食べてみてください

あえて混ぜ合わせず、食べる瞬間に肉とチーズ、そして調味料が重なり合う。

木下牛のステーキの横にはCHEESE STANDのリコッタ。ソーズと言っても極々シンプルだ。

ズブズブいってください。ズブズブ」

そう笑いながら語る水田さん。
素材のポテンシャルを信じる料理人としての自信と、食べる楽しさを共有したいという遊び心が溢れている。濃厚な肉の旨味を、リコッタのミルクの甘み、さっぱりとした酸味と塩気が包み込む至福の瞬間だ。(ちなみに、夏場であれば「トマトとステーキソース」を合わせるのも水田さんのおすすめだという)

箸で肉を持ち上げ、リコッタにディップ。口の中で初めて味が完成する、至福の瞬間。
ひと絞りのレモンで、味の輪郭がくっきり。水田さんの「混ぜない、かける」哲学。

なぜリコッタなのか? 東京の店舗でも愛されるピュアな魅力

数あるチーズの中で、なぜリコッタなのか。水田さんが特に高く評価しているのが、リコッタだ。「とてもピュアで、料理にすごく使いやすい」と絶賛する。リコッタはチーズを作る過程で出るホエイ(乳清)を煮詰めて作られるため、脂質が少なくヘルシーなのも大きな魅力なチーズ。

そのピュアなキャンバスは、フルーツや蜂蜜といった定番の組み合わせにとどまらない。

「実は『和の食材とも驚くほど相性が良い」

固定概念にとらわれず、さまざまなテイストとも自在に調和する。だからこそ、水田氏が手がける各店舗でも「CHEESE STAND」のチーズは欠かせない存在となっている。

東京の「Mon an(モンアン)丸の内」では、みずみずしい「季節のフルーツとリコッタ」の組み合わせでゲストを魅了。さらに「清喜 朔(さく)」では、リコッタだけに留まらず、カチョカヴァッロやセミハードチーズなども料理に取り入れ、その奥深い魅力を余すところなく表現している。

水田さんの手にかかれば、チーズは単なるトッピングではなく、料理全体の輪郭をくっきりと浮かび上がらせる名脇役となるのだ。

この日は夜行われるイベントのために2人で厨房に立っていた。
清喜の二人の顔。北里氏ことリリー店長と水田さん、信頼と笑顔が織りなす「清喜」の時間。

本当の贅沢は「どう食べるか」にある

水田さんの話から見えてきたのは、単に高級な食材を使うことではなく、「素材そのものが持つ美味しさを、いかにクリアに届けるか」という真摯な姿勢だ。

味を足していくのではなく、引き算によって素材の輪郭を際立たせ、最後に「かける」ことで完成させる魔法の方程式。

次に家でお肉を焼くときは、ぜひピュアなリコッタを用意して、塩とレモン、オリーブオイルをかけて「ズブズブ」といってみてはいかがだろうか。

あるいは、丸の内や福岡の名店に、その答えを確かめに行くのもいい。いつもの食卓や外食の時間が、水田流の哲学によって、さらに豊かなものに変わるはずだ。

いつも笑顔の水田さん。Ricebirdのスタッフはいつ行ってもみんな笑顔。訪れるだけで元気になれるそんなお店です。

水田 正大(みずた まさひろさん

1983年兵庫県生まれ。「ロイヤルホールディングス(株)」に入社し「花の木」のシェフを務めた後、エスニック料理『モンアン』の立ち上げに携わる。
2018年『清喜』開業。現在は『清喜ひとしな』『餃子おそ松』『Mon an』など9店舗を経営。

清喜
福岡県福岡市中央区平尾1-10-20 BRAMASOLEhirao 1A
TEL:050-5600-9658
定休日:不定休

https://ricebird.jp/pages/restaurant_kiyoki

photos by 天野龍也
text by 米田望

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