2020年秋、原宿にできた商業施設「JINGUMAE COMICHI」の2階にミシュラン一つ星を獲得するフレンチ「Sincere」の新業態として「Sincere BLUE」がオープンしました。“サステナブルシーフード”をテーマに展開するこちらのお店のシェフ、吉原誠人さんにお話を伺いました。
ーここに至るまでのご経歴を教えていただけますか?
東京調理製菓専門学校に通っていた時に、フランス料理を学びたいと思い、学校の留学制度を使って現地のレストランやホテルでフランス料理を勉強しました。
日本を離れ、海外に身を置いてみると、フランスの郷土料理に関する知識は増えていくのに、母国である日本の郷土料理を全く知らないことに気づきはじめたんです。そこで、日本のことをもっと知るために、お金を貯めて日本一周の旅に出かけることにしました。
「日本一周」という大きなステッカーをバイクに貼って、約3ヶ月かけて全国をまわりました。いざ出かけてみると、東北の寒さも知らなければ、一面に広がる田園風景すら知りませんでした。それまで出会ったこともない料理にもたくさん出会い、自分の目で見たものだけがリアルだと思いました。バイクにテントを積んで道の駅で寝る毎日を過ごし、家がある有り難みも実感しましたね。
日本一周を終え、改めて料理を勉強したいと思いリサーチしていた時に、偶然見つけたのが前職の「Sincere」でした。僕は地元が湘南なんですが、小さい頃から釣りをしていてお魚も好きだったんで、何かしら魚介系に突出したお店が良いなと思って探していました。
当時は都内のさまざまなお店を回って研修をさせていただいたんですが、「Sincere」では、他にはないアグレッシブさを感じました。何かを生み出していくことを心の底から楽しんでいる雰囲気が特に印象的でしたね。
「Sincere」のオーナーシェフ 石井真介さんは、若いうちから何でもチャレンジさせてくれる方で、そんな場所なら自分も成長できると思い、その後社員として働かせてもらうことになりました。
石井さんは当然のこと、当時パティシエをしていた大山恵介(現、easeシェフパティシエ)の菓子仕事をみて天才とはこういう人のことを言うんだなと思いました。お茶菓子ひとつでもかける時間が本当にすごいんです。それだけ苦労しているんだなと思います。
ーその後はどんな流れで「Sincere BLUE」のシェフになられたんですか?
「Sincere」で働き出した当初は、レストランのことなんて何も知らなかったので、おしぼりを畳んだり、洗濯物を干すことからスタートしました。その後少しずつパンを焼いたり料理にも関わらせていただけるようになり、魚にも触らせていただけるようになりました。
手を挙げればなんでもやらせてもらえる反面、日に日に忙しさも増し、自分のキャパを超えそうになるまで、とにかくがむしゃらに働いていましたね。
しばらくすると、当時「Sincere」のスーシェフを務めていた(現、Omakaseシェフ)の窪田修輔さんがシンガポールに行くため退職し、そのタイミングで運よく跡を引き継ぐ形でスーシェフになりました。ちょうどいいタイミングで上の人が辞めてったんで、恵まれた環境でしたね。
それから半年間スーシェフを務め、「Sincere」の99%ぐらいのことはわかるようになってきたときに、次を考え始めました。丁度その時に、石井さんから「Sincere BLUE」のお話をいただきました。「サステナブルシーフード」をコンセプトとしたビュッフェレストランをやるから、そこでシェフをやらないかと。話を聞き、意味があるレストランだと思い、引き受けました。世の中に少しでも貢献できるならと思いました。
―「サステナブルシーフード」とは具体的にどんなお料理なんですか?
未来にわたって持続的に魚を食べ続けられるように、環境に配慮して獲られた魚介や、傷みやすいなどの理由で一般に流通しなかった“未利用魚”を扱った料理です。
“未利用魚”は横須賀にある長井漁港の長谷川さんという方から仕入れていて、普段は流通に乗らないような魚が箱にまとまって届くんですが、何が入っているか到着するまでわからないんです。開けてみて「なにこれ?!」みたいなところから始まるんですが、見たことも聞いたこともない魚との出会いはなかなか面白いですよ。
日本一周の旅をしていた時に全国で出会った漁師さんが、「昔はもっと魚がたくさんとれたんだけど、最近は魚の種類も変わってきた」と言っているのを聞き、日本各地で起こっている海の異変を目の当たりにしていたので、料理人としてこのような形で食の未来に貢献できることはとてもやりがいに感じています。
―素晴らしい取り組みですね。そのほか、吉原さんが大切にしていることはどんなことですか?
ここは「Sincere」と違ってカジュアル店なので、サービスも料理も型にはめすぎず、スタッフそれぞれのスタイルを大切にしています。
お客さんとの距離も近く、フランクなコミュニケーションを心がけています。2回目にいらっしゃった方には、「前回、えびめちゃ食べてましたね」なんて声を掛けると、お客様も喜んで反応してくださるので、お客様との会話もとても楽しいです。
ここでは、テーブルビュッフェ形式で、スモールポーションで提供するんですが、お相撲さんが来店された時には、一品一品が小さすぎて満足いただけないんじゃないかな?と心配になり、ライス食べますか?なんて聞いちゃいました。「ぜひ、お願いします!!」っておっしゃるんで、大盛りのライスをご用意させていただきました。フレンチなので、白米をそのまま提供することなんて絶対ないですが、この時は特別に。やっぱり心の底から満足して帰っていただきたいじゃないですか。
「Sincere BLUE」のスタッフは僕より若い人ばかりなので、このお店を通じて、料理人っていいなと思ってもらえるといいなと思っています。
ーよろしければ、CHEESE STANDのチーズを使った料理をご紹介いただけますか?
リピーターさんにお出ししている特別メニューで、リコッタチーズを使ったクレープです。中に養殖の銀鮭のマリネと、リコッタを入れています。場所が原宿なんで、原宿っぽいものを作りたいな〜と考えていた時に、原宿といえばわたあめ、タピオカ、クレープが浮かび、クレープなら作れる!って思って作りました。(笑)
もう一つは、カミナリというイカを使った一品です。長谷川さんの漁港に行ったときに、捨てられているイカ墨が目に入ったんです。これで料理を作ってみようと思い、イカ墨でパリパリの生地を作りました。
イカとイカ墨で作った魚醤のマヨを挟んで、最後にスモークカチョカヴァッロを削ります。口に入れると最初に燻製の香りがふわっと広がり、イカの甘み、最後にピメントのスパイスが締めてくれる感じです。
ー小さくて食べるのがもったいないですね!CHEESE STANDのチーズを使っていただいた理由を教えてください。
CHEESE STANDは、「Sincere」時代に同僚の恵介に聞いて知っていました。奥渋谷のPathでも使っているときいて食べに行ったんですが、すごくおいしかったので、チーズを使うならCHEESE STANDと決めていました。
特にリコッタは特別だと思います。すごくコクがあって、味もしっかりしていて。カチョカヴァッロも淡白なイメージでしたが、CHEESE STANDのスモークカチョカヴァッロは燻製香がしっかりとついていて料理にも合います。
イタリアの知らない方のものを使うよりも、CHEESE STANDの方が絶対いいと思って。実際美味しいし。
ーありがとうございます。最後に一つ質問させていただいてもいいですか?外で干しているあれはなんですか?
「ヌタうなぎ」です。「棒あなご」という秋田県男鹿市の珍味を作っているんです。日本で「ヌタうなぎ」を食べる地域がこのエリアにしかないらしく、珍しい深海生物です。長谷川さんに相談したら、しっかり干した方が良いと言われたので、今、追加干ししているところです(笑)。
“未利用魚”は情報が少ないのでいつも本当に悩みます。今回も、ネットで唯一見つけた動画を見ながら内臓を取り出してみたり、試行錯誤中しています。正直、こんなことやってるの僕ぐらいだと思います(笑)
吉原誠人さん
19歳でフランスに渡り1年間料理修業に励んだ後、帰国後に全47都道府県をバイクで周遊し、日本の漁業の実情について見識を深める。「ザ・ペニンシュラ東京」で調理担当を経て、2017年から3年間「Sincere」で働き、2020年9月より「Sincere BLUE」でシェフを務める。
Sincere BLUE
東京都渋谷区神宮前1-23-26 JINGUMAE COMICHI 2F
TEL: 03-6434-0703
営業時間:12:00〜14:00(土日11:00〜14:00)、ディナー17:00〜22:00
定休日:月
https://www.facebook.com/fr.sincere
photo by 石原哲人
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