生命力あふれる食材や美味しい料理は、不思議な輝きを放ちます。チーズも然り。信念や愛情を持って生み出されるからこそ、チーズは“フォトジェニック”でもあると思うのです。
そんな想いに共感いただき、“盛り付けデザイン”の世界を繰り広げてくれたのが、飯野登起子(いいの ときこ)さん。今回はCHEESE STANDの「東京ブッラータ」をテーマに、2つの盛り付けを展開していただきました。
単に美味しそうで、きれいなフードフォトは目指しませんでした。食材や皿そのものが持つ力、作り手への敬意といったものにまなざしを向けながら、“目でも美味しい”チーズの世界をご案内したいと思います。
飯野登起子さん
盛り付けデザイナー。自由大学(おうちパーティー学、おいしい盛り付け学、おいしい写真を撮ろう)、尾道自由大学(盛り付けデザイン学)教授。企業、店舗、窯元、展示会などでのフードの盛り付けデザインやディスプレイを手がける。
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フルーツと野草で、奥ゆかしさと生命力を
styling+photography by Tokiko Iino
巾着状の形をした真っ白なブッラータを主役とし、どんな表現を生み出すか。
飯野さんが挑んだひとつ目のデザインは、フルーツを使ったもの。3種のベリー、キウィフルーツ、透明なスグリが登場しました。赤黒のしっかりとした色のベリーと、淡く半透明なスグリが、ブッラータを可憐に引き立ててくれています。右に添えられたのは、畑で摘みたてのワイルドストロベリーとブラックベリーの葉。全体をグッと引き締め、野の息吹をもたらしてくれてるかのようです。
天然の素材感があるクロスやカトラリーを添えると、こんな印象に。
styling+photography by Tokiko Iino
飯野さんは、食材のことはもちろん、それを豊かに演出してくれるアイテムにも、愛情をたっぷり注ぎます。手にとって何かを感じた器があれば、その作り手に会いに工房へ向かう。話を聞き、感じたものをまた盛り付けで表現する・・・。その積み重ねが、こうした世界観のある「盛り付けデザイン」を生んでいくのでしょう。
野菜とブッラータが、ファンタジックに
styling+photography by Tokiko Iino
もう一つの盛り付けは、トマトをテーマにお願いしました。
最近は品揃えの良いスーパーやファーマーズマーケットで、多種多様なトマトを見かけるようになりましたが、飯野さんがこの盛り付けのために用意したトマトや草花は、すべて畑からの摘みたて。
「先ほどのワイルドストロベリーとブラックベリーの葉もそうなのですが、植物家の片山さんという方が手がけたものを用意しました。いつも一緒に仕事をさせていただいている片山さんの新鮮な植物とともに、私の多くの盛り付けデザインが生まれています。」
そう話してくれた飯野さん。今度は濃色の木製カッティングボードを使い、トマトのバリエーションを見せながら、真っ白で艶やかなブッラータをキュウリの葉の上にON。
まるで大きな雨雫のように葉の上にのったブッラータと、それを囲むエディブルフラワーとトマトたち・・・こうなると、童話の世界のワンシーンのようにも思えてくるから不思議です。
styling+photography by Tokiko Iino
ワインを添えると、食のシーンにグッと近づきました。この日合わせたのは、ブッラータと同じイタリア・プーリア州生まれのスパークリングワイン、ルフィアーノ。輝きあるこの微発泡のワインは、味わいとしても、トマトやブッラータと抜群の相性を織りなします。
共感し、広がっていく、盛り付けデザインの魅力
この日は、盛り付けデザイナーとして活躍される飯野さんを追ったドキュメンタリー、NHKニュースシブ5時内の「お仕事図鑑」(2017年7月31日放送)の撮影も入っていました。感性豊かに繰り広げられる世界に、撮影スタッフのみなさんも楽しまれていたようです。
傍らで、私も撮影に挑戦。チーズへの想いを込めて、頭の中でストーリーのようなものを思い浮かべながら、撮ってみました。
ブッラータを毎朝作るCHEESE STANDの工房スタッフの顔と、高原の朝のコテージのような風景を頭に描きながら・・・。
“食べる”ということは、生きていくことに直結します。
チーズはもちろん、野菜やフルーツなどの食材、器にカトラリーに、クロス・・・すべてに作り手がいるからこそ、美味しい食卓が生まれ、それを写真に収めることもできる。それを感じ、想像力と豊かな心をもって撮影するフードフォトは、単なるグルメ撮影とはひと味違うはずです。
盛り付けデザイナー、飯野登起子さんは、そんな世界へと案内してくれました。スマートフォンでも十分に楽しめるので、みなさんもチーズのある豊かな食卓を、盛り付け&撮影で楽しんでみませんか。
text and photographs by 佐野嘉彦
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