肉焼きの名人、和知徹シェフの「マルディグラ」のためのパンを焼くなど、料理人からの信頼も厚いブーランジェ、割田健一さん。
銀座の「ビゴの店」や「ブーランジェリー・レカン」での経験で培われた確かな技術を持ち、「街に根ざしたパン屋を新たな場所で」と、大々的な宣伝は一切せずに2017年11月、東日本橋に「BEAVER BREAD」をオープン。
パン愛好家だけでなく、この街の人に日常的に通ってもらいたいという想いが早くも伝わり、連日盛況ななか、割田シェフにインタビューさせていただきました。
親しみのある「B」を、この街に
―なぜこの東日本橋という街で「BEAVER BREAD」という可愛らしい名前のパン屋をオープンされたのでしょうか。
このあたりは昔からの問屋街ですが、最近新しいマンションが増え、東京駅や日本橋からもそう遠くないということもあってか、外国人旅行者のゲストハウスやコーヒーショップも多くできたりしています。文化的な食を理解し、楽しもうとする方が増えてきているなかで、本格的なベーカリーはまだなかった。この界隈にいる友人からも、ぜひこの街でと勧められていました。
「BEAVER BREAD」という名前は、僕の案ではなかったんです(笑) でも、最初から「B」がつく店名にしたいという考えがありました。Bread、Bake、Bakery、Boulangerなど、パンにまつわる言葉は「B」で始まるものが多い。でも「Boulangerie(ブーランジェリー)」としてしまうと、少しとっつきにくく、街の人のためのパン屋というコンセプトから遠くなってしまうかな、と。「BEAVER BREAD」なら、親しみやすさもあって、略しても「B.B.」となって響きもいいし、良かったかなと思っています。
―お好きなチーズやこだわりは何かありますか。
苦手なチーズは特にないのですが、料理に使って食べるというよりは、チーズとパンをそれぞれ単体で食べるのが好きです。お客さんはチーズを使ったパンが好きなので、「クロックムッシュ」「ごぼうとチーズ」「ミルクチーズ」といったチーズ入りのパンを焼いていますが、個人的には別々が好きで・・・。チーズに限らず、混ぜて食べるのがあまり好きではないので、納豆とご飯も混ぜずに食べるくらいです(笑)
「ここに来るから買える」というものを
―パンの他に、ジャムや塩、オリーブオイルなどのアイテム、さらにCHEESE STANDのチーズも販売していただいていますが、セレクトにはどういうコンセプトがあるのでしょうか。
この街の人の日常の食卓で楽しんでもらいたいもの、「ここに来るからこそ買える」というものを少しずつ置いています。「パンと合って、美味しい」ということはもちろんなのですが、それ以上に、それを作っている人が好きだったり、ストーリーがあったりするものを置きたいと思っています。
あとは、出合いのタイミングもありますね。CHEESE STANDのチーズは、東京の渋谷で品質にもこだわって作っているものであるうえ、紹介いただいたのが、ちょうどチーズをラインナップに入れたいなと思っていた時でした。
パンとチーズとワインと・・・食の可能性を見つけていく
―チーズを使ったパンメニューをご紹介ください。
これはレギュラーのものではないのですが、CHEESE STANDの「出来たてモッツァレラ」とパクチーを、うちの定番のホワっとした食感の「九州の明太フランス」に挟んだサンドイッチを作ってみました。明太子と相性が良い“白い食材”として、モッツァレラは絶対に美味しい。ミルキーな風味とシコシコとした食感があり、さらにパクチーの個性的な香りがアクセントになっています。
食感、香り、味わいがすべて馴染んでしまうのではなく、個性をもったままバランスがとれるという組み合わせで、いろいろな美味しさを探求したい・・・その想いから、頭に浮かんだいろいろなメニューを試作して、食やワインの世界の仲間と一緒に味わいながら、時々新たな食の可能性を探る機会を持っています。
―そんな試作メニューで、もう一つCHEESE STANDのチーズを使ったものがあるそうですね。
はい。「出来たてリコッタ」を使って、ワインに合うつまみのようなクリームパンを作りました。みなさんお馴染みのあの伝統的なクリームパンをベースに、いくつかの工夫を施しています。生地にピマンデスペレット(バスク地方の甘味のある唐辛子粉)を加え、カスタードクリームと一緒にリコッタを包んで焼き上げています。これも、ほんのりピリッとした辛味のアクセントや、リコッタ特有の甘みと舌触りが、全体のなかで馴染むのではなく、美味しさのバランスとして生きています。(編集部注:このクリームパンは取材後、2018年2月に新作として登場)
photo by CHEESE Media
―チーズと割田さんのパンは、これからもいろいろな美味しさを生んでくれそうですね。
信頼の置ける方から「こんなコラボはどう?」という話のボールが投げられると、回転レシーブするようにまずはそれを拾ってみる。あまり気負わず、柔軟に、食の可能性を探求していきたいと思っています。
綿密に計画することで生まれる良品もありますが、瞬発的なパワーや出合い、タイミングで生まれるものは面白いですし、オリジナリティに溢れたものになりますよね。
割田健一さん
埼玉県出身。高校卒業後「ビゴの店(プランタン銀座)」にて修業。2007年、第1回「モンディアル・デュ・パン」日本代表に選抜される。2011年から「銀座レカン」グループのブーランジェリーシェフを務め、2014年12月「ブーランジェリーレカン」開店。2017年銀座を後にし、同年11月に現店をオープン。
BEAVER BREAD
東京都中央区東日本橋3-4-3
tel. 03-6661-7145
営業時間/8:00〜18:00
定休日/月曜、第1第3火曜 ※不定休あり
text by 佐野嘉彦
photographs by 石原哲人
シリーズ《CHEF’S VOICE》
チーズを料理に生かす、プロフェッショナルたち。
- 「出来たてリコッタ」はFRESH CHEESE Delivery(オンラインショップ)で
- ほわほわ食感で、ほんのり甘い。
- 東京・渋谷で作られるフレッシュなリコッタは、料理にもデザートにも活用できて、低カロリー。オンラインショップでもお求めいただけます。
http://fcd.cheese-stand.com/