チーズもパンも本当にいろんな種類があって、何と何をどう合わせるか考えるのは、楽しくも悩ましいもの。迷った時は、バゲットやパン・ド・カンパーニュが無難ですが、いつもそればかりというのもちょっとつまらないですよね。
そんな時に参考にしていただきたい、パンとチーズのペアリングのヒントと例をご紹介します。
押さえるべき5つのポイント
パンとチーズをペアリングする時のポイントは5つ。参考までですが、頭の片隅にこのことを入れておくと、選ぶ時の軸となってくれます。
①味わいの強さ、深さを揃える
軽い味のチーズには軽いパン、強い味のチーズにはしっかりした味わいのパンを。
②香りや味に共通項のあるものを合わせる
ミルクやバターの風味、香ばしい香り、酸味等で共通する部分があれば、そこがパンとチーズの繋ぎ役となってくれます。
③テクスチャーや水分量を揃える
水分が多く、柔らかくてなめらかなチーズにはしっとりと柔らかいパンを。硬いチーズには、水分が少なくしっかりとした歯応えのパンを。
④産地を揃える
標高が高く寒い所で作られる山のチーズには、寒冷な場所で多く栽培される、ライ麦を使った黒っぽいパンを。さらに、クルミ等山のナッツや、チェリー、レーズン(特に山ぶどう)などの黒っぽく凝縮感のある山のドライフルーツが入っているものもよく合う。山のものには山のものを合わせたい。そして平地のチーズには、平原で採れる小麦粉が主体の白いパンを。
⑤対比を楽しむ
塩味の強いチーズに甘いパン、風味の強いものと弱いもの、硬いものと柔らかいもの等、その対比を楽しみつつ、一緒に食べた時のバランスと相乗効果を楽しむ。
では次に、実際のチーズタイプ別に合わせるパンをご案内しましょう。
フレッシュタイプのチーズに合うパンは?
リコッタ、フロマージュブラン、モッツァレラにマスカルポーネ、クリームチーズ、ブリアサヴァラン・フレ… 。
白くてやさしい味のフレッシュタイプのチーズに合わせるのは、やはり白くてやさしい味のパンがおすすめ。バゲットが無難ですが、他のものと合わせるなら、食感と味の強さ、コク味を揃えるのがポイントです。
例えば、クリーミーで濃厚な味わいのマスカルポーネなら角食パン。中でも、しなやかで柔らかくバターの風味を感じるリッチなタイプがおすすめです。ほんのり甘みのあるものでも良く合います。
また、乳脂肪が高くてコク・酸味のあるブリアサヴァラン・フレやクリームチーズなどには、ほのかに酸味があって少しライ麦の入ったパン・ド・カンパーニュも大人っぽい組み合わせで良いものです。さらに蜂蜜やジャムを添えて一緒にいただくのもおすすめです。
そしてイタリア系のモッツァレラやリコッタなら、チャバタやフォカッチャに挟んでサンドイッチにしても。焼いても美味しくいただけます。
シェーヴル(山羊乳)チーズに合うパンは?
サント・モール・ド・トゥーレーヌ、ヴァランセ、クロタン、セル・シュール・シェール、ピコドン…。
バラエティ豊かな形とキュートなルックス、そして熟成で味わいが大きく変化するシェーヴル。 若いうちはさっぱりとした酸味があり、熟成が進むにつれてぎゅっと凝縮感が増してコクが出てくる事が多いので、熟成によって選ぶパンを変えてみるのも面白いチーズです。
例えば、若いものにはフォカッチャやフガス、熟成が進んだものにはリュスティックやライ麦の入ったパン・ド・カンパーニュ等、熟成からくる生地自体の美味しさがあるシンプルなパンが良く合います。また、シェーヴルはハーブとの相性も良いので、ハーブ入りのパンもぜひ一緒に試していただきたい組み合わせです。
白カビタイプのチーズに合うパンは?
カマンベール、ブリ・ド・モーをはじめとした白カビタイプのチーズ。日本では50年以上前から流通していますし、食べやすい味と風味のものが多く、日本人には馴染みのあるタイプのチーズです。
一概に白カビチーズと言っても、味わいの軽いものから、旨みや塩味のしっかりとした重く複雑なもの、そして乳脂肪が多くバターの様にリッチなものなど、味わいはさまざま。
軽い味わいのものには、バゲットやリュスティック、パン・ド・ミなど、小麦粉100%でできた軽くシンプルなパンが合いますし、しっかりとした味のものにはライ麦の入った、しっかり味のパンの方がバランス良いでしょう。
また、やさしくクリーミーなものには、オレンジピールやクランベリーなど、軽い風味のドライフルーツが入ったパンが良く合います。乳脂肪の高いチーズとなら、パンもまた、ブリオッシュやクロワッサンなど、バターを多く使ったものと合わせると美味です。
さらに冬場なら、熟成タイプのブリアサヴァラン(ブリアサヴァラン・アフィネ)をパネットーネにのせて一緒にいただくのも、おすすめの食べ方です。
ハード&セミハードタイプに合うパンは?
コンテ、ボーフォール、グリュイエール、ラクレット、トム・ド・サヴォワ…。
その種類も豊富なハード&セミハードタイプのチーズですが、元々は山で作られているものが多く、どれも素朴で深みのある味わい。熟成が進むと、こっくりとしたナッツの様な味と香りが出てくるものもたくさんあります。
そして、山のものにはやはり山のもの。合わせるなら、まずはクルミやヘーゼルナッツなど、森のナッツが入ったものがおすすめ。そしてパン生地自体にはライ麦や全粒粉の入ったものが良いでしょう。
また、パンの食感は硬い方がチーズの硬さと揃うので、一緒に噛みしめつつ食べると、しみじみ美味しく感じます。
例えば、クルミとライ麦の入ったパン・ド・カンパーニュやライ麦パンのパン・オ・セーグルやパン・ド・セーグル、そしてパン・コンプレと呼ばれる全粒粉入りのパンです。ちょっと変わったところでは、みっちりと硬い食感のベーグルとも良く合います。
ウォッシュタイプのチーズと合うパンは?
エポワス、マンステール、リヴァロ、モン・ドール、タレッジョ…。
塩水やお酒で洗いながら熟成させ、オレンジ色がかった表皮が特徴のウォッシュタイプチーズ。香りの強いイメージがありますが、実際に食べると意外にもマイルドでクリーミー。しかも深い味わいで非常に美味なものが多いのです。
そして、その香りの中には穀物の様な香ばしさがあるで、まずは雑穀の入ったパン・ド・セレアル(雑穀パン、シリアルブレッド)がおすすめ。雑穀入りのハード系パンも間違いありませんが、チーズの柔らかくクリーミーな食感に合わせて柔らかいパンを選んでも良いですね。
また、ライ麦と小麦が同量入ったミッシュ・ブロートを薄く切ってチーズを塗ってもとても美味。ライ麦の良い香りと深い味わいが、ウォッシュタイプチーズとよく合います。
また、ウォッシュタイプはスパイスとの相性も良いので、さらに上から胡椒やクミンをぱらりとかけるのもおすすめです。
青カビタイプのチーズと合うパンは?
世界三大ブルーチーズ(スティルトン、ゴルゴンゾーラ、ロックフォール)をはじめ、フルム・ダンベール、ブルー・デ・コース、ブルー・ド・ジェックスなど、様々な種類があるブルーチーズ。青かびのしっかりした風味と旨み、強めの塩味が特徴です。
パンを合わせるなら、それらに負けない力強さを持ったものがおすすめ。例えば、ライ麦がたっぷり入ったパン・ド・セーグル(ライ麦パン)やパン・ド・カンパーニュは間違いありません。また、ブルーチーズは山で作られることが多いので、クルミなどの山のものが入ったパンもおすすめです。
そして、チェリーやレーズンなど、凝縮感のあるドライフルーツが入ったパンは、味の対比を楽しむ点から考えてもとても合うものです。ぜひお試しください。
以上、パンとチーズのペアリングにおける考え方とおすすめしたい組み合わせをご紹介しました。
もちろん、美味しい組み合わせはこれ以外にもたくさんありますし、自分の好きな食べ方を探るのにタブーはありません。ご自身で自由に組み合わせていただく時の参考となればと思います。
なお、今回のパンの名称はなるべく一般的なもので表記していますが、チーズのように統一された呼び方があるわけではないので、ベーカリーによってその名付けはさまざま。ですので、全く同じ名前のパンを探すよりは、同じようなタイプのパンを探すことをおすすめします。
美味しいパンとチーズで、シンプルで豊かなひとときをお過ごしください。
photographs of bread by パン教室ラ・ナチュール
- 小笠原由貴(おがさわら ゆき)
- 恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/