
東京ミッドタウン日比谷の3階。皇居の緑を望むラグジュアリーな空間で、驚きに満ちたイタリア料理を提供する「SALONE TOKYO」。日比谷公園の広大な緑を見下ろすパークビューの店内は「都会の喧騒を忘れさせる開放感」
そんなサローネグループの旗艦店を率いる青木一誠シェフに、自身の料理哲学と、その一皿を支えてきたCHEESE STANDのチーズについてお話を伺いました。
イタリアで刻まれた「チーズという日常」の記憶
青木シェフのチーズに対する感性は、イタリア・ピエモンテ州での修行時代に培われたものが大きいと語ります。
「もともとエポワスやゴルゴンゾーラのようなクセのあるタイプが好きなんです。ピエモンテのゴルゴンゾーラが有名な地域にいた頃は、スーパーで大きなブロックを安く買って、毎日のようにパンと一緒に頬張っていました。それが日常だったんです」
修行先のレストランで目にした光景も、強烈な記憶として残っています。
「直径の大きな皿に、20種類もの巨大なチーズが一度に盛られて出てくる。管理も日本のように厳重すぎるほどではなく、木の板の上に裸で置かれていたり、リコッタが袋に入っていたり。オーナーが自然体で管理しているその姿を見て、日本との消費量や文化の圧倒的な差を肌で感じました」
縁がつないだ、チーズとの出会い
── 「あの味」を東京で見つけた衝撃
CHEESE STANDさんの存在は、以前から一緒に働くスタッフや知人のシェフ、また米田(広報)さんとの縁で知っていました。でも、本当の意味でその魅力を知ったのは、農家さん主催のフェノキエット(ウイキョウ)の収穫祭イベントでのこと。その場にいた※関口シェフが、CHEESE STANDのブッラータチーズを使って仕上げた一皿を食べ、その鮮烈さに惹かれたんです」
※当時CHEESE STANDでシェフを務めていた
そこから始まった、渋谷の工房との交流。青木シェフが数ある選択肢からCHEESE STANDを使い続ける理由は、プロの料理人としての切実な視点にありました。
「イタリアから届くストラッチャテッラは、どうしても保存のために塩味が強く、料理の幅を制限してしまう。でも、ここのチーズは塩味が控えめで、ミルク本来の甘みがしっかりと感じられるんです。出来たてのフレッシュな状態で届くから、むしろ手を加えない方が美味しい。この“純粋さ”こそが、私たちの料理に必要でした」
── 記憶を呼び起こす「リコッタ」の衝撃
特に青木シェフを驚かせたのが、工房見学で出会ったリコッタチーズでした。
「食べた瞬間、ピエモンテでの修行時代の記憶がフラッシュバックしました。まさにイタリア現地で食べていた、あの絶品のリコッタそのものだった。その日のうちにすぐにスタッフにも試食させました。満場一致で『すぐに使おう!』と導入が決まったほどです」
現場で直接言葉を交わし、作り手の熱量に触れたことが、SALONE TOKYOのテーブルと渋谷の工房を繋ぐきっかけとなりました。
単なる「地産地消」という言葉以上の実利と感動がありました。
そのリコッタは現在、SALONE TOKYOのコースの中で、芸術的な2つの一皿へと昇華されています。

〈大きな窓からは気持ちの良い光が差し込む〉

〈ビーツとお肉の前菜・リコッタチーズ〉

〈ほうれん草とリコッタのラビオリ〉
リコッタが奏でる、甘みと刺激のアンサンブル
CHEESE STANDのリコッタは今、2つの異なる表情でゲストを魅了しています。
1. 和の調和が生む、清涼な一皿「ビーツとリコッタとお肉の前菜」
赤と白のコントラストが芸術的な前菜。
ローストビーフに合わせるのは、軽く脱水して旨味を凝縮させたリコッタです。 驚くべきは、そこに「梅酢」を合わせている点。 「梅酢のフルーティーな酸味とビーツの土の香りを、リコッタが包み込むようにまとめてくれます。ジャンルに縛られず、素材の相性を突き詰めた結果、この軽やかでさっぱりとした前菜が生まれました」
以前はこの組み合わせをストラッチャテッラで提供していた。リコッタに変えることで、より繊細で奥行きのある味わいへと進化を遂げました。
2. ミルクの甘みがスパイスを纏う「ほうれん草とリコッタのラビオリ」
まず目を引くのは、鮮やかなクロロフィルのグリーンオイルが美しく映えるラビオリ。
パスタの中には、クミンと唐辛子のアクセントを効かせたリコッタが閉じ込められています。 「ホエイバターのソースがリコッタのミルク感を引き立て、食べた瞬間に鼻から抜ける甘い香りとスパイスの刺激のバランスが絶妙。まさに、出来たてのリコッタだからこそ成し得る、優しくも力強い一皿です」

「情景」をのせる一皿、そして広がる食の輪
青木シェフが食材を選ぶ基準は、単なるクオリティの高さだけではありません。「生産者と直接話し、どういう想いやこだわりで作っているかを知ること。その背景を知っていると、メニューを考える際に自然と『情景』が浮かび、それが表現方法にも繋がります」と語ります。
ファーマーズマーケットへ自ら足を運び、こだわりの強い生産者と対話を重ねる。見えない部分にもその個性を宿らせるのが、青木シェフの料理の真髄です。
そんなシェフの想いは、ゲストにもしっかりと届いています。 「以前、CHEESE STANDさんのチーズを使った料理を常連さんにお出しした際、『このチーズはどこの?』と聞かれたことがありました。次にご来店されたとき、『美味しかったから自分でも買いに行ったよ』と言っていただけて。あれは本当に嬉しかったですね」
作り手の想いをシェフが繋ぎ、それが食べる人の行動を変える。SALONE TOKYOという場所で、そんな幸福な循環が生まれています。
日比谷から瀬戸田へ。変わらない想い
2022年からSALONE TOKYOの顔として腕を振るってきた青木シェフですが2026年2月からは、広島県・瀬戸田へとその舞台を移します。
舞台は、しまなみ海道・瀬戸田にある、邸宅のような宿「Azumi Setoda」。
「場所が変わっても、生産者と対話し、その個性を料理に映し出す姿勢は変わりません」。 東京・渋谷で作られたチーズが、日比谷という社交場で磨かれ、そしてシェフの手によってまた新しい土地へとその魅力を広げていく。
青木シェフが描く「食の情景」は、瀬戸田の豊かな風土の中で、また新たな物語を紡ぎ始めようとしています。

青木一誠シェフ
1984年5月東京都出身。
バール、トラットリア、リストランテと経験をつみ、2013年に渡伊。
ピエモンテ州トリノの星付きレストラン「Ristorante Gardenia」(現グリーンスター)にて先進的なコースと伝統的な郷土料理の双方を学ぶ。帰国後、2016年9月にサローネグループに入社し、「サローネ2007」のスーシェフを経て2018年にシェフに就任。 2022年より「サローネ トウキョウ」のシェフに就任し現在に至る。
2026年2月からは瀬戸田と活躍の場を移す。
SALONE TOKYO
東京都千代田区有楽町1-1-2
TEL:03-6257-3017
営業時間:12:00~15:00/18:00~22:00
定休日:なし
http://www.salone.tokyo/
photos by 石原哲人
text by 米田望











