2016年4月、アルゼンチンで行われた「第15回A.S.I世界最優秀ソムリエコンクール」で優勝したソムリエ、スウェーデン代表のジョン・アルヴィッド・ローゼングレン(Jon Arvid Rosengren)さんをご存じですか。
31歳という若さで世界一のソムリエの称号を獲たアルヴィッドさんの拠点は、ニューヨーク。母国スウェーデンではなく、小さくて美味しい店が多いウェストヴィレッジのレストランで働いています。
2016年6月、彼が勤める「Charlie Bird」を訪問。「チーズが使われた料理をアラカルトで、ワインはグラスで(1杯20ドル未満)」というお題で、3つの料理をいただきながら、ワインをサーブしていただきました。
ブッラータに、キリリとした酸とうま味を感じる白ワインを
1皿目は「Roman Burrata
(ローマン・ブッラータ)」。
※この料理や店については「ニューヨークでは定番に!フレッシュチーズの前菜4選」で詳しくお伝えしていますので、ぜひそちらもご参照ください。
ブッラータはクリーミーで濃厚なイタリア発祥のフレッシュチーズですから、スパークリングワインかイタリアの白ワインを合わせるのかと思いきや、アルヴィッドさんがセレクトしたのは、こんなワインでした。
Clisson Domaine de La Pepiere 2013 Muscadet Sevre-et-Maine。
フランスのほぼ真ん中を流れる大きなロワール河の河口近くで作られる、ミュスカデという品種の白ワインです。
「ブッラータにミュスカデ、ですか?」と少し不思議そうな顔をしていた私に、「試してみてください。ミュスカデのイメージも少し変わると思いますよ」とサーブしていただいたのですが……なるほど。
キリリとした酸味が爽やかに広がりながらも、3年の熟成を経て生まれたうま味が、クリーミーなブッラータの風味に寄り添う。ミュスカデのワインは、酸味とともにさらっと飲めてしまうタイプのものが多いのですが、これは少し趣きが異なる印象で、意外性も十分。2皿目のペアリングが楽しみになる幕開けとなりました。
地元産アスパラガス&パルミジャーノに、南仏のロゼ
2皿目は、ハドソン川の向かいにあるニュージャージー州で穫れたアスパラガスのロースト。クルミとサマートリュフ、そして上にはたっぷりのパルミジャーノ・レッジャーノがかけられた料理です。
「1品目と同じミュスカデのワインもとても合うのですが…」というアルヴィッドさんの言葉を(失礼ながら)遮り、「ロゼで何か合わせていただけますか?」とリクエスト。実は、ニューヨークでは3年ほど前から“ロゼワインブーム”。きっと面白いロゼを選んでくれるに違いないと確信していたのでした。
「わかりました。では、お店でも人気のロゼをご用意します。」ということで、登場したのがこのワイン。
Triennes Rose 2015 Provence。
ロゼワインの一大産地である、南仏プロヴァンスの辛口ロゼです。サンソーという品種をメインに、グルナッシュ、シラー、メルローをブレンドした、南フランスらしいロゼで、イチゴのようなフレッシュで甘い香りもあります。
「まだ陽射しがある初夏の夕方にぜひ楽しんでほしい、そんなワインです。アスパラガスの青々とした香り、アクセント的なパルミジャーノやサマートリュフの風味に、チャーミングなベリーの香りと酸味を持つロゼを合わせてみました。」
差し込む陽の光やまだ客も疎らな時間帯の雰囲気も考え、高級ワインばかりではなく、カジュアルなワインをいかに合わせるか。ブランドや銘柄よりも、センスを追い求めるニューヨーカーに人気なのも分かる、そんなおすすめでした。
定番のラビオリには、変化球のピノノワールを
3皿目に注文したのは、この店の人気メニューという、ほうれん草のラビオリ。プロシュート(生ハム)、そしてパルミジャーノ・レッジャーノが塩味とうま味をのせている、そんなパスタ料理です。
「ソムリエコンクールのおかげで、今回こうして日本から来ていただいたので、その記念の意味も込めて、こんなワインはいかがですか?」
アルヴィッドさんがそう言って、サーブしてくれたのは、コンクールが行われたアルゼンチン産の赤ワイン。しかも、アルゼンチンでは少しめずらしい、ピノノワール種のワインでした。
Chacra Sin Azufre Pinot Noir 2015。
ワイン名にある“Sin Azufre”というのは、スペイン語で「二酸化硫黄(酸化防止剤)を使っていない」という意味。つまり、自然なつくりによるワインを意味します。ピノノワール特有の赤いベリー系の香りというよりは、ブルーベリーのような果実の香りがあって、少し骨太な印象。さらにクローブや八角といったスパイスの香りもあるからか、パルミジャーノやプロシュートハムも加わった“しっかり味”のラビオリとも呼応していました。
味わいはもちろんのこと、エピソードや思い出も織り交ぜるワインセレクト。心配りもソムリエの大事な要素なのだと、改めて感じることができたペアリングでした。
デザートの代わりに、コーヒーとマデイラを合わせて
量にも満足で、デザートまでは残念ながら辿り着かず、最後にコーヒーを注文。すると、おまけでこんなペアリングも登場しました。
「お腹いっぱいでも、何となくデザートはほしい。そんな感じですよね?コーヒーと一緒に、甘いマデイラ酒を楽しんでください。」
粋な計らいで出してくれたのは「1988 D’Oliveira Terrantez」。チョコレートのような風味に、微かにバラのような花の香りもするマデイラ酒で、酸味や苦味もある複雑な味わい。チェイサーのようにブラックコーヒーを口にすると、さらに奥行きのあるフレーバーが広がる。最後に訪れた褐色のペアリングも素晴らしいものがありました。
終始、気さくに、決して押し付けがましいことはなく、心地よいサービスを提供する。
学生時代はナノテクノロジーを専攻し、エンジニアへの道を進んでいたというだけあって、ワインをロジカルに学ぶのが得意というアルヴィッドさん。いろいろな価値観や文化を背景とした人々と接するなかで、自分の引き出しを活用し、増やしていける環境として、ニューヨークを選んだのだそう。
「日本ならではのワインやチーズにも興味があります。日本酒や焼酎のことももっと知りたいし、近いうちに日本に行ってみたいと思っているんですよ。」
チーズとワインをつなぐプロフェッショナルの仕事。世界一に輝いた若きソムリエは、ニューヨークを拠点に、また新たなペアリングをどんどんと提案していくことでしょう。
Charlie Bird
http://www.charliebirdnyc.com/5 King Street, New York, NY 10012
営業時間 日〜木: 11:30-23 | 金・土: 11:30-24
Tel: 212.235.7133
text and photographs by 佐野嘉彦
ニューヨーク・チーズ紀行(全5話)
vol.02「ニューヨークでは定番に!フレッシュチーズの前菜4選」
vol.03 「朝食からおつまみまで!ブルックリンでチーズを堪能」