本当に美味しい山羊乳チーズを食べたことがありますか?「シェーヴルチーズ」のストーリー

chevre cheese

樽形、円盤形、メダル形、上部が切れたピラミッド形、丸太形、コルク栓形、クローバー形・・・小さくてバラエティ豊かな形をしたシェーヴル(山羊乳チーズ)は、並んでいる姿も可愛く、見ているだけで気持ちが上がるもの。

山羊乳製のチーズは、スペイン、ポルトガル、イタリアなどのヨーロッパ、そしてアメリカでも盛んにつくられていますが、バラエティの豊かさや味、伝統、知名度、人気などを考えると、まず知っておきたいのは、フランス産。今回は、山羊乳製チーズを語るうえで外せない「フランス産シェーヴル」についてご紹介します。

 

シェーヴルってどんなチーズ?

chevre cheese

“Chèvre (シェーヴル)”とは、フランス語で“山羊”のこと。そして山羊乳でつくるチーズのことを“Fromage de Chèvre”と言ったりしますが、日本でよく聞かれるのは、“シェーヴルタイプ”とか“シェーヴルチーズ”、または単に“シェーヴル”という言い方です。

シェーヴルと言っても種類は様々で、フランスのA.O.C.という規格で原産地や製法などが護られているものだけでも14種類(2016年現在)ありますが、それ以外のもの、特に地方でつくられる名も無きチーズまで考えると数えないほどたくさん。それぞれに特徴があり、フランスのチーズ屋さんで、色、形、熟成期間、状態、産地などが異なるたくさんのシェーヴルが並ぶ様子には胸躍ります。

tools for making chevre cheese

フランスでシェーヴルがつくられるようになったのは、8世紀。ロワール河流域でのトゥール・ポワティエ間の戦いに敗れたアラブ系のサラセン軍が、食糧確保のために連れてきていた山羊やチーズ職人を置いて撤退してしまったため、山羊とシェーヴルチーズづくりの技術がそこに残りました。今でも、ロワール河流域がシェーヴルの一大産地であるのは、こういった歴史が絡んでいるのです。面白いですね。他にシェーヴルの主な産地としては、プロヴァンスやローヌ川添いの南部が有名です。

Val de Loire

フランスのシェーヴルは、乳酸発酵主体でつくられることが多いので、熟成が若いうちは特にヨーグルトの様な酸味と香りがあり、さっぱりとした味が特徴です。軽い白ワインやロゼワインともよく合います。

そして、その後の熟成による味の変化がまた面白いのもシェーヴルならでは。熟成が進むにしたがって水分が抜けて組織がぎゅっと締まり、こっくりとしたミルクのコクが感じられるようになってとても美味。上質な赤ワインにも合わせられる味わいに変化します。

また、製造時に葉っぱに包んだり、灰をまぶしたり、さらに熟成時の管理次第で味わいが大きく変化するので、シェーヴルの熟成は、チーズ熟成士にとって腕の見せどころでもあります。

 

シェーヴルにも旬がある

goats for chevre cheese

ところで、シェーヴルには旬があるのをご存じでしょうか?

シェーヴルの旬は、春~夏。というのも、山羊たちが出産を迎えるのが春の初め。その後、ミルクが出なくなる秋まで、子山羊のためにお母さん山羊が出すミルクをもらってチーズづくりが行われます。中でも春は、芽吹き始めた瑞々しい草花を、そして夏は勢いよく茂った青草を食べて母山羊たちがミルクを出します。

春~夏は、そんな生命力に溢れた美味しいミルクでチーズづくりを行うので、とても風味よく美味しく仕上がるのです。だから、チーズ好きの中には春になると“あぁ、シェーヴルの季節がやって来た!”とこの季節を心待ちにしている人もいます。

chevre cheese

また、若いシェーヴルのさっぱりとした味は、春の気持ちの良いお天気の日や夏の暑い日にキリリと冷やしたワインと楽しむには最高。陽射しの似合うシェーヴルは、味わいの意味でも春~夏が旬なのです。陽射しに恵まれたプロヴァンスでシェーヴル作りが盛んなのも、頷けますね。

 

フランスのシェーヴルチーズたち

次は、代表的なシェーヴルをいくつかご紹介しましょう。

 

シャヴィニョル

chavignol

数年前まで、クロタン・ド・シャヴィニョルという名前で親しまれていた「シャヴィニョル」。クセがあまりなく、こっくりほっくりとした味わいは誰にでも好まれ、シェーヴルの代表として欠かせないチーズです。

この「シャヴィニョル」を有名にしたのは、パリで流行った“クロタンのサラダ”。シャヴィニョルを横半分にカットしてローストしたものを、サラダにのせて仕上げるのですが、シェーヴルらしさを堪能できて見た目も洒落たこのサラダは、シェーヴル好きにはたまらない一品です。

salad of chevre cheese

 

サント・モール・ド・トゥーレーヌ

sainte maure de touraine

そして、こちらも有名なサント・モール・ド・トゥーレーヌ。

中に藁が1本通っているところ、片方がやや細くなった丸太形、灰をまとってグレーがかった色が特徴的なので、一度見たら忘れない存在感があります。中の組織は真っ白で、比較的軽めの味わいです。

sainte maure de touraine

 

セル・シュール・シェール

selles-sur-cher

下がやや広がった円盤形のセル・シュール・シェール。こちらも灰をまぶしているので、グレーがかった色をしていますが、中の組織は真っ白できゅっとつまっています。

selles-sur-cher

 

ヴァランセ

valencay

上を切り取ったピラミッド形のヴァランセ。やはり周りに灰をまぶしているので表面はグレーがかっていますが、中の組織は真っ白です。熟成とともにこっくりとコクのある味わいに変わっていきます。

 

デリケートゆえの難しさ、そして、それを超える美味しさ

chevre cheese

日本では、臭い、クセが強い…など、あまり良いイメージを持たれていないシェーヴルですが、とても消化しやすく体にやさしいので、フランスでは、“人生はシェーヴルに始まりシェーヴルに終わる”と言われるほど赤ちゃんからお年寄りまで親しまれています。

また、状態の良いものは不快な臭いはなく、とても爽やかなミルク感があって美味しいもの。だから、初めはチーズ専門店で買ってみてください。管理が行き届かず、チーズが蒸れてしまうことで、不快な臭いが出てきてしまうのです。

chevre cheese

タイプにもよりますが、チーズの表面(外皮)が少し乾燥気味なものに、良い状態のものが多いです。慣れてくるとその様子を見るのも楽しくなってきます。美味しいシェーヴルとの出会いがあると、そこから大好きになることもあるので、シェーヴルを食べられる機会があったらぜひ、少しだけでも試してみてください。

そのひと口が素敵な出会いとなるかもしれません。

 

フランス産シェーヴル(Chèvre)のきほん

  • タイプ:シェーヴルタイプ
  • 主な産地:ロワール河流域、プロヴァンス地方、ローヌ河流域
  • 原料:山羊乳
  • 熟成期間:1週間程度のものから、数か月のものまで様々
  • 形状・重さ:形は樽形、円盤形、メダル形、上部が切れたピラミッド形、丸太形、コルク栓形、クローバー形、球…など様々。重さは30g程から300g弱のものが多い。

 

yuki ogasawara
小笠原由貴(おがさわら ゆき)
恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/

最新の記事一覧

人気の記事一覧

タグ

このページのTOPへ