東京で店を出すなら、東京のチーズを使いたかった|「Sabas」ルーク・サバスさん

赤坂・日枝神社の鳥居下から乃木坂に向かう赤坂通は、店舗や飲食店が並ぶ昼夜問わず賑やかな通りです。しかし通りを1本は入れば、とたんに落ち着いた風情になり、料亭や屋敷がたちならんでいた頃の面影が残されています。

なかでも赤坂六丁目は、幕末の幕臣で政治家の勝海舟が居を構えたことでも知られ、赤坂氷川神社が高台に鎮座する静かな地域です。赤坂の喧騒から離れたこの地に、2023年4月にオープンしたのが「Sabas(サバス)」、天然発酵生地のピッツァとナチュラルワインが楽しめると評判のカジュアルなレストランです。

前身のゲストハウスに宿泊した縁でシェフに就任

店内に入り、カウンターの奥にあるピッツァ窯の前では、オーストラリア生まれのピッツァ職人でシェフのルーク・サバスさんがピッツァを焼いています。お気づきの通り、ユニークな店名は、サバスさんの名前からとられています。

北欧風の木目を活かした店内では、異国感よりむしろ親しい友人の家に招かれたような気持ちになるのは、昭和20年代に建てられ料亭として使われていた歴史があるからかもしれません。

「この建物は、Sabasがオープンする前はゲストハウスだったんです。そして僕は、そのゲストハウスの利用客だったんですよ」とサバスさんは、意外な話を始めます。

日本が大好きで、なかでもマンガとラーメンがとくに好きだったサバスさんは、2016年から数度、日本旅行に来ていました。その際に、Sabasになる前のゲストハウスに2度宿泊したことがあったのです。

コロナ禍の行動制限でインバウンドが激減していくなか、ゲストハウスを閉館し、1階を飲食店に変えて再出発を図ることになりました。その再出発のなかで「せっかく飲食店をするなら、今まで利用してくれた人に頼むことができないか」という案が生まれ、オーストラリア・南オーストラリア州でピッツァ職人として活躍していたサバスさんに白羽の矢がたったのです。

サバスさんがピッツァ職人として働いていたのは南オーストラリア州アデレード近郊のケープ・タウンという街にある「Pan & Vine」というピッツァレストランです。14歳から地元のアデレードでピッツァ職人として働いていたサバスさんが、2018年、24歳の年に同じくピッツァ職人である兄とともに開いた店です。

大好きな日本に行ける——。サバスさんは、二つ返事で来日を決意したといいます。

マルガリータ

 

サバスのザ・オリジナル「ブラックガーリック」、黒ニンニクとキノコ、モッツァレラなどのピッツァだ。

ピッツァ職人でシェフのルーク・サバスさん。

 

CHEESE STANDは友人のオーストラリア人シェフの紹介で知った

Sabasのピッツァの生地は、日本用に微調整はしているものの基本的にはPan & Vineのレシピです。粉と水、塩、粉、そして粉と水から起こした自家製天然酵母(サワードゥ)だけでつくります。生地は風味が豊かで、独特の酸味があるのが特徴です。

メニュー表を見ると、トマトソースとバジル、オレガノ、ニンニクのみのシンプルな「マリナーラ」や、ちぎった水牛のモッツァレラ、トマトソースなどをのせた「マルゲリータ」などイタリアの伝統的なピッツァがあるほか、日本の黒ニンニクや野菜をつかったオリジナルピッツァなどもあります。

「日本でお店をやるなら日本の食材を使いたいし、ましてや東京でやるなら東京の食材を使いたいと思うんです」というサバスさんは、CHEESE STANDの「東京ブッラータ」を使った小皿メニューを季節ごとに考案して、メニューに載せています。

「CHEESE STANDとの出会いは、日本で働いているオーストラリア人シェフの紹介でした。『とてもおいしいから』と紹介してもらったんです」とサバスさん。取材をした10月にメニュー表に載っていたのは、東京ブッラータとシャインマスカットを合わせた冷菜メニューでした。

東京ブッラータをまるごと1個使用し、イタリア産の白バルサミコ酢と東京・青梅市の有機栽培農家「青梅ファーム」の畑で採れたハチミツで和えたシャインマスカットを飾ります。そして最後にふりかけたのは塩昆布。なんとも意外な組み合わせです。

「塩昆布は、友人の韓国人シェフに教えてもらったんですよ」とサバスさん。東京ブッラータとシャインマスカットという“鉄板”の組みあわせのなかに、塩昆布のうま味と塩味、そして食感が絶妙なアクセントになった、どこか懐かしさを感じる味わいのひと皿です。

仕上げに塩昆布をふりかけて完成。

東京ブッラータをたっぷり使ったシャインマスカットの一品。

「独立したスモールカンパニー」同士、シンパシーを感じる

「僕は、ギリシャとキプロスにルーツをもつ家に生まれました。オーストラリアの移民3世になります。なので食卓には、オーストラリアのチーズはもちろん、ギリシャの『ハルミ』チーズやキプロスのチーズなどが並んでいました。チーズは身近な存在だったと思います」とサバスさんはいいます。Sabasのメニューにチーズのひと皿を入れているのは、そんなサバスさんの食卓の原風景に関係していたようです。

「CHEESE STANDのように都心でチーズをつくるというのはとてもユニークですよね。東京の牛乳を使っているのも、外国から来て東京で店を出す僕にとっては、意味のある食材に映ります。それに独立したスモールカンパニーというのも、赤坂で小さなレストランを開いた僕たちに似ていて、とてもシンパシーを感じます」

今後は、CHEESE STANDの「出来たてモッツァレラ」をピッツァに使ってみたいとサバスさん。さらに熟成チーズのチーズプレートや、ホエイを煮詰めてつくったブラウンチーズなどにも可能性を感じているといいます。

サバスさんのフィルターを通ったCHEESE STANDのチーズは、どんな新しいひと皿になるのでしょうか。今から楽しみです。

ルーク・サバスさん
1994年、オーストラリア・南オーストラリア州アデレード生まれ。14歳から10年間、ピッツァバーでピッツァ職人として腕を磨いた。2018年に兄とともにピッツァレストラン「Pan & Vine」を、アデレードに隣接するケント・ハウスにオープンさせた。ピッツァとは別に、日本のマンガとラーメンが好きで、2016年の初来日から数回にわたり訪日する。訪日時の宿泊したゲストハウスがリニューアルし飲食店(後の「Sabas」)を開くことになり、サバス氏にオファーをしたことがきっかけで2023年に来日、同年6月に「Sabas」のピッツァ職人とシェフに就任した。好きなマンガは『ONE PIECE』。

Sabas
東京都港区赤坂6-13-5
TEL:03-6230-9954
営業時間:11:30~14:30(木・金・土のみ)、17:00~22:00
定休日:火・水
https://www.instagram.com/sabasu_akasaka/

 

photos by 石原哲人
text by 江六前一郎

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「sabas」様でご使用いただいている「東京ブッラータ」は、CHEESE STAND online shopにてお買い求めいただくことができます。

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