小田急線経堂駅から東京農業大学に続く長さ380mの経堂農大通り商店街は、飲食店や商店が左右に並ぶ風情ある商店街です。駅から歩いて5分ほど、商店街の出口にあるのがアメリカ・ニューヨーク州産のワインを中心に販売するワインショップで、バーも併設する「go-to wine shop & bar」です。
「この角の立地がすごく好きなんです」というのは、go-to wine shop & barの店主、後藤由華さん。店内は、後藤さんの夫・芳輝さんが代表を務めるニューヨーク州産ワインの専門インポーター「GO-TO WINE」の珍しい商品が並ぶほか、CHEESE STANDのチーズなどを使った料理とワインが楽しめるバーエリアもあります。
「街の頼れるワイン屋さん」を目指す
経堂は、夫・芳輝さんの地元であり、共にニューヨークから帰国して2013年から家族で住んでいる街です。なによりGO-TO WINEを夫婦で立ち上げた場所でもあります。
「毎日のように通っていた経堂農大通り商店街のなかで、商店街と住宅街の境界にあるこの角地はすごく魅力的だと感じていました。とはいえ別のお店が入っていましたので、具体的に何かをするわけでもなく、ただなんとなく『あんなことができそう』と妄想していただけなんですけどね(笑)」
そんななか2022年秋、憧れの角地のテナントが空いているのを発見します。「これはチャンス」と思い問い合わせるとトントン拍子で話しが進み、由華さんも働いていた別のインポーターを辞め、わずか数カ月後の12月18日にgo-to wine shop & barをオープンしました。コンセプトは「街のワイン屋さん」だといいます。
「日本のワイン業界に10年いて感じるのは、日本人は勉強好きで真面目。ワインのプロにならないと飲んではいけないという意識があるようです。『ぜんぜんワインのこと知らないんで』といって、ワインを楽しむドアを閉めてしまっているんです。それはあまりにももったいないと思います」
後藤さんが考えるワインの楽しみ方は、ニューヨーカーたちから学んだ楽しみ方。たとえばエチケットで選ぶ「ジャケ買い」でもよく、自分の好き嫌いだけで選んでいく姿でした。ボルドーの五大シャトーの名前を覚えることではなく、日常にワインを取りいれて毎日を楽しむこと。その手伝いをするためにgo-to wine shop & barを開いたといいます
「GO-TO WINEというのは、私たちの『後藤』という意味ももちろんあるのですが、それよりも『頼りになる』という意味のGO-TOです。私たちは、かかりつけのお医者さんのように頼りになるワイン屋さんになりたいんです」
ワインとチーズの日々がニューヨークの思い出
併設のワインバーでは、グラスワインが900円からあるほか、店内で買ったワインを抜栓料1,650円で飲め、さらにはCHEESE STANDのチーズを盛り合わせた「チーズプレート」(990円)や、「ローストビーフ」(990円)、「おそうざい盛り合わせ」(770円)などのフードとともに楽しむことができます。
「チーズなら、ミルキーさがあって余韻に甘味を感じられるようなもの。『チーズプレート』に使っている『出来たてモッツァレラ』と『リコッタ』は、ニューヨークワインにぴったりだと思います」
ニューヨーク州は、アメリカのワイン産地として北東部にあたります。どっしりとした赤ワインはあまりなく、リースリングのように冷涼地でも栽培できるブドウを使って、軽やかでエレガントな味わいの白ワインが多くつくられています。そのため、バーで提供するフードも、強くコッテリしたものではなく軽やかなものがあいます。
「大事にしているのは、私たちにとっての地産地消。東京都区内のチーズ屋さんのCHEESE STANDさんは、代表の藤川さんにもお会いしたことがありますし、ローストビーフやおそうざいは、ケータリングやオンラインでの販売をしているママ友だちにお願いしています。繋がりがある人がつくったものを置きたかったんです」
とくにチーズは、ワインとともにニューヨークで好きになった思い出の食材です。ニューヨークの国連本部に勤めていた後藤さんは、職場の最寄駅であるグランドセントラル駅の食のセレクトショップに立ち寄るのがお気に入りでした。全世界から集まる良質な食材のなかにはチーズもあり、友人とパーティがあれば、ワインとともにチーズを買っていったのがニューヨークでの日々の思い出になっています。
「そのお店では、モッツァレラが2種類あったんです。イタリアと、ちょっと珍しいドイツのモッツァレラ。ドイツはセミドライになっているタイプで、どちらもおいしかったのですが、私は、どちらかというとミルキーなモッツァレラが好きでしたから、同じく樽熟成によってミルキーに仕上がるカルフォルニアのシャルドネとよく合わせて飲んでいました」
しかしある日、市内で引っ越した先の目の前にあったワインショップで、ドイツ産のリースリング種のワインを飲み、ブドウがもつアロマとバランスの良い酸味、アルコールもおだやかな、カルフォルニアのシャルドネとは別の味わいに魅了されました。
「少し甘みのあるリースリングで、白ワインでもこんな味わいのものがあるんだと感激したんです。それからずっとリースリングがお気に入りになりました。アルコール度も12度から13度と低くて、夫婦で1本飲みきれるのも良かったです」
じつは、ニューヨーク週で一番生産量が多いのはリースリングです。そのため芳輝さんがニューヨーク産ワインのインポーターを始めようとしたときに「おいしいニューヨークのリースリングなら私も飲みたい」と思い、GO-TO WINEに大賛成だったといいます。
go-to wine shop & barとCHEESE STANDは同志
CHEESE STANDのチーズに合わせたいワインを後藤さんに教えてもらいました。
「出来たてモッツァレラ」と「出来たてリコッタ」を盛り合わせた「チーズプレート」には、ドクター・コンスタンティン・フランク(Dr. Konstantin Frank)の「サーモン・ラン・シャルドネ・リースリング(2021 Salmon Run Chardonnay Riesling)」を合わせます。シャルドネとリースリングをほぼ半々に使い、シャルドネのしっかりさと、リースリングのさわやかさを併せ持つバランスのよい白ワインです。
「出来たてリコッタ」に合わせたいのは、ラモロー・ランディング(Lamoreaux Landing)の「シャルドネ(2020 Chardonnay)」です。ブドウ果汁の65%を木樽で発酵・熟成させることで生まれた乳酸由来のクリーミーな余韻が、「リコッタ」の甘やかでミルキーな風味とよく合います。
「出来たてモッツァレラ」には、同じくラモロー・ランディングの「ドライ・ロゼ(2022 Dry Rosé)」をおすすめしたいと後藤さん。カベルネ・フラン種を使った甘味のあるロゼで、その甘味がモッツァレラの余韻にある甘味によくあうといいます。
「ニューヨークワインとCHEESE STANDのチーズは、味わいの相性がいいだけではないです」と後藤さんはいいます。「家に出来たてのチーズを」というCHEESE STANDのコンセプトと、go-to wine shop & barの「街の頼りになるワイン屋さん」のコンセプトは、外国の良い文化を家庭に取りいれてより良い日々にしようという点で、目指しているものは同じだからです。
「それに仕事帰りに疲れて歩いた先に切り替えられる場所があるといいですよね。そういう場所って実は、私がいちばん欲しかった場所なんです(笑)。だって嫌な気分で家に帰れば、家族に嫌な思いをさせちゃうじゃないですか。それならおいしいワインとチーズでリセットしてから帰る。そんな場所が商店街にあったら幸せだと思うんです」
まだまだ話しを聞きたいところでしたが、ちょうど夕方になり店に後藤さんに会いにくるお客様が来はじめたこともあり、ここで取材は終了。次々にお客様が訪ねてくる様子は、まさに商店街の頼れるワイン屋さんそのものでした。
後藤由華さん
ワシントンD.C.とNYCに10年ほど在住。帰国後の2013年に、夫・後藤芳輝氏が日本初のNYワイン専門インポーターを立ち上げる。通訳・翻訳、イベントコーディネート、他インポーターでの勤務などを経て、NYワインの魅力を直接消費者に伝えるべく、小田急線経堂駅に2022年12月18日バー併設のワインショップ「go-to wine shop & bar」を開業、店主に就任した。
go-to wine shop & bar
東京都世田谷区経堂1-26-15 石塚ビル 1F
TEL: 03-6413-7610
営業時間:12:00~20:00
定休日:日・月・祝(変更あり、Instagramでご確認ください)
https://www.instagram.com/gotowine.kyodo/
photos by 石原哲人
text by 江六前一郎
「go-to wine shop & bar」様でご使用いただいている「出来たてモッツァレラ」「出来たてリコッタ」は、CHEESE STAND online shopにてお買い求めいただくことができます。