東京の牛乳なら搾った翌日にチーズを作れます|増田徳子さん

※本記事はCHEESE STAND公式noteで過去に投稿された記事を転載しております。

東京の牛乳なら搾った翌日にチーズを作れます|増田徳子さん

CHEESE STAND online shopや& CHEESE STANDで取り扱っているプロダクトの生産者をインスタライブにお招きしプロダクトにこめた想いを語ってもらう「&なCraftsmanとProducts」を2020年9月から毎週配信していました。第6回目のゲストは、東京・清瀬市の酪農家「増田牧場」の増田徳子さんです。夫の光紀さんとともに50年近く続く増田牧場の牛乳を使ってCHEESE STANDでは、毎朝チーズを製造しています。CHEESE STAND 代表の藤川真至が、酪農家さんの仕事ぶりや、都市型酪農の課題などをお聞きしました!(インスタライブ配信日:2020年10月16日)

嫁いだばかりの頃は牛にバカにされていた

――増田さんたちのミルクを使わせていただくようになって5年くらいでしょうか。長いお付き合いをさせていただいています。

僕たちを取材していただくメディアの方から、「牛乳は北海道ですか?」とよく聞かれるんです。「東京の清瀬市なんです」とお答えすると、たいていみなさん驚かれます。東京でも牛乳を搾っている酪農家さんがいることを知らない人は多いみたいです(藤川、以下同)。

東京都の酪農家は全部で39軒、私たちの増田牧場がある清瀬市には、私たちを含め6軒の酪農家がいます(2020年10月現在)。

私は、もともとは大学で養豚の勉強をしていましたが、大学の同級生で酪農の勉強をしていた光紀さんと出会って結婚しました。”酪農家の嫁”になって、19年です(笑)。

 

――増田さんにお会いする前に、東京都酪農業協同組合の方とお話をしていた頃は、東京の酪農家は50軒くらいと聞いていたんですけど、それから10軒くらい減っちゃったんですね。

後継者不足や地域との環境問題で廃業される方が増えていますね。この問題は、酪農に限らず農業全体で起きています。

 

――最初は、養豚を学んでいらしたようですね。どういった経緯で養豚を学ばれたのですか?

子どものときから動物に囲まれて育って、将来は動物園の飼育員になりたいと思っていたんです。なので、動物関連の仕事に就くために埼玉県立の農業大学で養豚を学び始めました。養豚を選んだのは、豚を育てるというのは、ちょっと変わっていておもしろいな、と思ったからですかね。

 

――酪農家の家に嫁がれて苦労はありませんでしたか?

酪農は、それまでまったく興味がないわけではなかったんですけど、ほとんど知らなくて搾乳もしたことはない。ただ、豚もそれなりに大きかったので、牛に対する怖さというものはなかったので、その点は苦労はしませんでした。

豚も100㎏ちょっとはあるので、牛はその7倍いかないくらいでしょうか。

 

――搾乳をしていて、牛に蹴られることもあったそうですね。

牛は、人間と同じでいろいろな性格があって、人間が好きな牛もいれば、人間を嫌いな牛もいるんですね。私が嫁いだばっかりの頃は、完全によそ者だったので、けっこう牛にバカにされてました。

牛って視野が広いんですよ。こっちが気を抜いていると、狙って後ろ蹴りをしてきたり、前を歩いていても頭突きしたりとか、そういう意地悪をされるのはしょっちゅうでした。

 

――牛に認められるようになったきっかけとかはあるんですか?

私は哺乳の担当をしているので、小さいときから面倒を見ている牛は懐いてくれるようにはなりますね。だけど、性格がきつい子は、大人になっても性格がきついままだし、死ぬ間際までかわらないという意地のわるい子というのもなかにはあります。

去年も、搾乳中に後ろ蹴りをくらって青たんをつくりました。腫れちゃって外を歩けなかったくらいですよ。そういうのは、未だにあります。

朝6時半と夕方5時、1日2回搾乳する

――朝3時に牛乳がCHEESE STANDに届くということは、酪農家さんはどんな生活で仕事をされているのか興味があるんですが、毎日どんな生活サイクルなんでしょうか?

うちの場合は、朝は6時半から牛舎にはります。餌場の掃除をしたり、糞尿の掃除をしたりします。牛床(ぎゅうしょう)には、おがくずと消石灰を混ぜたものを、殺菌効果もあるので、混ぜています。それから搾乳をします。

朝の仕事終わりは10時ちょっとですかね。昼間は、体を休めたり、畑の仕事をしたりしていますが、牛舎のチェックもしたりはしています。エサを食べているかとか、具合が悪くなっている牛はいないかとかを見ています。

夕方は17時ころから、朝と同じことをします。それが22時くらいに終わります。

1日3回搾乳される農家もあるので、農家さんごとに違うんですけど、うちは1日2回搾乳をします。3回搾乳をすると、乳量が多くなるといわれています。ただ、1日3回となると搾るのも大変なので、大規模な農家さんがやっているかな。私たちのような中小規模の農家は、1日2回の搾乳をするのが多いように思います。

 

――牛舎では何頭の牛を飼ってるんですか?

子牛をあわせて、常時40頭くらいです。

牛って年に1回お産するんですね。繁殖期があるわけではなくて、春になったら、子どもが生まれるわけでなく、人間と同じ妊娠周期なんですね。だから出産ラッシュはあまりないんですね。月に6、7頭のときもあれば、1頭とかもあるので、平均的に月に3頭くらい生まれます。

牛は、生まれたときには40㎏ほどなんですよ。

 

――すごいなぁ。よくテレビとかで見る、ヨロヨロしながら立ち上がるわけですね。

牛は草食動物なので、自然界では肉食動物の標的にされてしまうんです。だから生まれて1時間すれば立つ子もいるし、お母さんとすぐに逃げられるようになっているんだと思います。早い子は30分で立って、ゆるゆると歩くこともあります。母牛の乳を飲みに歩くみたいです。

 

――僕もイタリアでチーズを教えてもらっていたところは、昼間にチーズを作って、朝夕搾乳するところでした。だから、お話を聞いていて、その頃のことを思い出して懐かしく感じました。

ちなみに、毎日掃除をして集めた牛の糞尿はどうしているんですか?

牧草地として畑を持っているので、そこに肥料として入れたり、清瀬は野菜農家がけっこうあるので、もっていったりしてもらっています。

 

――東京で酪農を行うことは大変ではないですか?

都市型酪農は、住宅地と隣り合わせなので、臭いの苦情とかがあります。

清瀬市には、新しい住宅地ができて引っ越してきてくださる方がいます。その際に、臭いについて住宅会社さんも説明されているんですけども、それでも実際に住んでみて苦情をされる方もいます。

多くの方は事前に説明があるのもあって、かえって牛を見てみたいと訪ねて来てくれる方もいらっしゃいます。割合でいったら、そういう方の方が多いですよ。

牛乳の味は、季節によって変わる

――増田牧場さんは、「乳牛の美人コンテスト」(主催:日本ホルスタイン登録協会)に参加されて、何度も受賞されていますよね。

はい、おかげさまでいい成績をとらせていただいていますね。

このコンテストは、おもに体型が審査されます。ポイントとしては、たとえば草食度物で反芻をして栄養を取り込むのですが、栄養を体に取り込むまでに時間が長い方がいいので、胃の長さが長い方がいい。ですから胴が長い牛はポイントが高いわけです。

また、おっぱいが大きくて足が短い牛だと、自分のおっぱいを踏んでしまうこともあるんですね。そうならないように足が長い方がいいとか。あとは、乳房のバランスとか、そういったどれだけ牛の生産性につながる体型であるかというのが「乳牛の美人コンテスト」で評価されるポイントで、決して見た目が美しさを競うものではないのです。

 

――牛乳の旬やおいしい牛乳の条件ってありますか?

牛には繁殖期がないので、一年中乳を搾って飲むことができるんですね。ですので平均して牛乳を搾ることができるのです。牛は、寒さに強いんですね。マイナス15℃とかでもぜんぜん平気なんですね。20℃からマイナス15℃くらいの場所で生活するのが牛にとってはいい環境なんですね。

寒さに強いので、その時期、東京だと冬は牛乳がおいしくなります。

 

――そう、僕も毎日飲んでいるのでわかります。夏を過ぎたあたりから味がしっかりしてくるというか。

そうですね。夏の牛乳の方がさっぱりしていますよね。冬の牛乳はしっかりしていますよね。

 

――牛がすごく水を飲むからと聞いたことがあるんですけど、本当なのでしょうか。

うーん、冬の方が牛にとって過ごしやすいので、ストレスかからないのが冬なんですね。だから、そいう気候の時の方がおいしいということなのかなぁと思います。

 

――チーズにしたときの歩留まりが、冬の方がいいんですね。だけど10月くらいが実は、一番チーズつくりが大変なんですよ。気温が変化するので、水温も毎日かわったりするんで難しい。

牛も夏バテしたところに、秋になると急に涼しくなったりしますよね。10℃以上の気温差は牛にストレスが出て、体調を崩したりするので、乳牛の質にも出てくると思います。

脂肪分が多いと、牛乳は濃い感じがします。

 

――牛の品種、ホルスタインとジャージーでも違いますよね。

ホルスタインから搾った牛乳は、3.5%牛乳として売られています。これは牛乳に含まれる脂肪分の量で、3.5%以上ありますよということ。私たちが絞っているのはだいたい3.7%以上です。それに比べて、ジャージー牛は4%、スーパーでは4.4%以上もありますよね。脂肪の濃さで味がかわりますから、ジャージー牛の方が味が濃いと思います。

 

――季節によって味がかわっていくのは、どうしてでしょうか。

私たちは、牧草用の畑を持っていて、そこではデントコーンという飼料用のトウモロコシを栽培しています。収穫したあとは、発酵させてから飼料に混ぜて与えていてます。

都市型酪農は一般的に自給飼料を与えられないので、輸入飼料を使っているのがほとんどなんです。輸入飼料のメリットとしては、栄養の成分が安定しているので、牛の体調もその分安定します。だから搾った牛乳の栄養価の変動が少ないとされています。

私たちは通年とはいかないのですが、一時期間は自給飼料を与えています。それももしかしたら、季節によって味が違ってくる原因かもしれません。私としては、自給飼料をあげてるときの牛乳の方がおいしい気がします。

――今後の酪農の課題についてはどうお考えですか?

牛って、気温が低いところで生活できる動物なので、地球の温暖化、とくに東京は、夏場の気温が上がっているので、そういう気候に適している動物ではないなかでどう育てていくか。夏をどれだけ快適にすごさせて、牛に負担をかけずにするか。負担がかかれば質のよくない牛乳を搾ることになりますし、体調を崩して死亡したりすることもありますからね。

そのために牛舎をどれだけ快適に過ごせるように気を遣うか。東京でやる場合は、それが課題になりますよね。

 

――牛が出すメタンガスとかも問題になってますよね。

二酸化炭素排出は、それはしょうがないのかな、生きていると二酸化炭素は、排出するので。あとは、先ほどお話した、住宅地との関わり方というところだと思います。

 

――最後に、おいしい牛乳の飲み方を教えてください!

一番おいしいのは、やっぱり搾りたての牛乳です。だけど殺菌もせずに飲むことは保健衛生上はできないので、こればっかりは酪農家の特権ですね(笑)。

酪農は北海道のイメージがありますが北海道でとれた牛乳は東京にくるまでに時間がかかるんです。だけど東京の牛乳なら、東京の工場で殺菌パック詰めされて、しぼった次の日の内にはスーパーに並ぶ。新鮮な牛乳だから賞味期限も長いんです。

東京牛乳」の商品名でスーパーなどで買うことができます。料理研究家さんもおすすめしてくれている。スーパーでみかけたら、よろしくお願いいたします!

 

――僕たちもこの6軒の牧場から毎日届けてもらっている牛乳からチーズを作っています。出来たてのモッツアレラやリコッタ、ブッラータをぜひ食べてもらいたいです! 今日はありがとうございました!


増田牧場の新鮮な牛乳を使ったCHEESE STANDのフレッシュチーズの数々はwebストアでも購入できます。モッツアレラやリコッタなどをぜひ味わってみてください!

CHEESE STAND 3種セット | CHEESE STAND online shop


CHEESE STANDのオウンドメディア「CHEESE STAND media」でも増田牧場さんを取材させていただいております。前後編を読んでみてください。

ニンジン畑も広がる東京の町から生まれるミルク、そしてチーズ《増田牧場 前編》

美味しいチーズとミルクの背景にある“べっぴん”なストーリー 《増田牧場 後編》

 

文・構成=江六前一郎

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