ハイジの舞台となったスイスは、国土のほとんどが山地。九州と同じくらいの広さですが、その風土に根ざしたチーズの数は、なんと数百種類にものぼります。
長い冬を越すための貴重な食料でもあったのが、ハードタイプの、いわゆる山のチーズ。今回は、そのなかでもスイスを代表するチーズのひとつと言える「グリュイエール」にフォーカスをあててご紹介します。
グリュイエールってどんなチーズ?
グリュイエールは、日本でも良く知られており、チーズ料理には欠かせないハードタイプチーズ。チーズフォンデュに使われるチーズの代表選手でもあります。
ブロックにカットされ、真空パックで売られているのをよく見かけますが、グリュイエール本来の姿は、直径60㎝前後もある大きな円盤形をしています。
グリュイエールの故郷と歴史
グリュイエールが生まれたのは、雄大な山々が美しい、スイス西部のフリブール州。フランスと国境を分けるジュラ山脈のスイス側のエリアです。
フリブール州には、“グリュイエール”という名の小さな村があり、その村で1115年からグリュイエールチーズとしての製造が始まったと言われています。長い長い歴史と伝統を持つチーズです。
ちなみにフランスとスイスはジュラ山脈の頂を国境として接していますが、山脈のフランス側では、コンテをはじめとしたグリュイエールと似たチーズが作られています。1つのチーズを作るのに大量のミルクを必要とするグリュイエールとコンテは、いずれも酪農家たちと、チーズ製造者、熟成業者という三者が、それぞれの行程で協力し合い、チーズを作り上げるというシステムも同じです。国境はあっても地理的環境・文化等を共有する地域。同じ山の両側で同じようにチーズが作られているのも自然なことです。
ジュラ山脈やアルプス山脈で作られる大型のハードタイプチーズは、総じて「グリュイエール」と呼ばれていました。しかし人気チーズの宿命なのか、他国でもグリュイエールのコピー商品が作られたりしたため、本場のグリュイエールを守るための活動が19世紀頃から行われてきたのです。
そして現在、“グリュイエール”と名乗れるのは、生産地はもちろん、製法、品質等の基準をクリアしたスイス産とフランス産のみ。両者は似ていますが、スイス産はチーズ内部の気孔(チーズアイ)が無い(またはあってもごく小さい)のに対し、フランス産にはえんどう豆大からさくらんぼ大の気孔があるのが、分かりやすい違いです。
グリュイエールは、どう作る?
グリュイエールは、そのブランドと品質を守るため、生産地はもちろん、製法、そして牛たちの餌についても厳しく決められており、夏はフレッシュな青草、冬は干し草のみで、添加物やサイレージ(発酵飼料)は認められていません。
そんな自然なものだけを食べた牛たちは、朝・夕の2回搾乳されます。前日夕方のミルクは巨大な銅鍋に入れて一晩静置し、翌朝のミルクと合わせてチーズが作られます。ミルクはレンネット(凝乳酵素)で固めた“カード”と呼ばれる状態にしてからカットしますが、その段階で初めて加熱が許されるので、ミルク本来の風味が活きた個性豊かなチーズとなります。
加熱しつつ細かくカットされたカードは型に入れて水分を切り、さらに20時間ほどかけて圧搾されます。
圧搾後、型から取り出したチーズは22%の塩水に24時間浸けられ、熟成に入ります。
熟成の最初の3か月はチーズ製造所の熟成庫で大切にお世話をされ、その後、専門の熟成業者の熟成庫へと移されます。
日々、ひっくり返したり塩水でブラッシングをしたりとお世話をされつつ、旨味と風味豊かなチーズへと成長していきます。合計5ヶ月から18か月の熟成を経たチーズたちは、厳しい品質チェックを受け、基準をクリアしたものだけが、グリュイエールとして出荷されるのです。
夏の移動放牧でつくられるものはスペシャル
ところで、グリュイエールには“アルパージュ”と呼ばれるものがあります。
毎年5月中旬から10月中旬にかけて、牛たちはジュラの標高1000m以上の山岳地帯に放牧され、自然に生えている多種多様な草花を自由に食むのですが、そんな牛たちのミルクから作るチーズは滋味深く、香り豊かで複雑な味わい。こうしてスイスの山の恵みを存分に反映した夏作りのチーズが「グリュイエール・ダルパージュ(Gruyère d’Alpage)」と呼ばれ、珍重されています。
グリュイエール全生産量におけるアルパージュの割合はほんのわずか。見つけた時は、ぜひお試しいただき、まずはそのまま食べて、深い味わいを感じていただけたらと思います。
なお、グリュイエールには熟成期間6~9か月の“クラシック”、10カ月以上の“リザーブ”、そして“ビオ(オーガニック)”というものもあります。それぞれに特徴がありますので、自分好みのもの、食べ方に合わせたものを選ぶのが理想です。
グリュイエールの美味しい食べ方
グリュイエールを食べる時は、カットしてそのままつまんだり、スライスをサンドイッチにしたり、サラダに使っても美味しいのですが、なんといっても加熱調理が主です。
定番は、やっぱりチーズフォンデュ。スイスを代表するチーズ料理ですね。
それからグラタンやキッシュ、チーズトースト、熱々スープのトッピング、タルト、スフレ・・・ そして、焼いたお肉やハンバーグにのせたり、お肉で巻いて焼いたり、コロッケの真ん中に入れたり、カツに挟んだり・・・と、バリエーションがいくらでも広がる使い勝手の良いチーズですので、ぜひ日常の食卓で楽しんでいただけたらと思います。
そうそう、ワインを合わせるならフルーティーで辛口の白ワインが定番です。また、軽めの赤ワインも良く合います。そして出来ることならスイスワインを手に入れたいところですが、残念ながらあまり出回っていないので、山脈のフランス側、ジュラのワインもおすすめです。日本酒も良く合いますので、ぜひお試しください。
本場を訪れるなら、これが便利!
グリュイエールは、スイスが誇るチーズのひとつ。スイスを訪れる機会があれば、ぜひ参加してみたいのが、観光列車の旅です。
自然豊かなグリュイエール地方を特別列車で巡り、グリュイエールチーズの工場はもちろん、スイスのもう一つの特産品であるチョコレートの工場見学もセットになった「チョコレート・トレイン」が夏季は運行。ランチは、本場のチーズフォンデュなのだそう!
グリュイエール地方はアクセスが少々不便なのですが、この「チョコレート・トレイン」だとレマン湖畔の幹線も通ってるモントルー発着で便利です。
◎スイス・チョコレート・トレイン
www.myswis.jp/ja/swiss-chocolate-train.html
※冬季は「チーズ・トレイン」が運行
https://www.myswitzerland.com/ja/cheese-train.html
グリュイエール(Gruyère)のきほん
- タイプ:ハードタイプ(加熱圧搾タイプ)
- 原産地:スイス西部のフリブール州、ヴォー州、ヌーシャテル州、ジュラ州とベルン州の一部
- 原料乳:牛乳(無殺菌乳)
- 熟成期間:5ヶ月以上
- 形状・重さ:直径55~65㎝、高さ9.5~12㎝の円盤形 重さ25~40㎏
協力:スイス政府観光局、Switzerland Cheese Marketing AG
- 小笠原由貴(おがさわら ゆき)
- 恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/
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http://fcd.cheese-stand.com/