ハイジの舞台となったスイスは、国土のほとんどが山地。九州と同じくらいの広さですが、その風土に根ざしたチーズの数は、なんと数百種類にものぼります。
スイスの二大ハードチーズ「グリュイエール」と「エメンターラー」に続く今回は、ちょっと小ぶりなチーズ。一見シンプルな形なのに「個性的、楽しい、美味しい」と三拍子揃ったチーズだから、一度体験したらまた食べたくなる・・・そんなチーズです。
その名は「テット・ド・モワン(モワンヌ)」。さてさて、どんなチーズだと思いますか?
テット・ド・モワンってどんなチーズ?
週末、ホームパーティーを開こう!そんな時にチーズがあるととても助かりますよね。
コンテやブッラータ、パルミジャーノ・レッジャーノ、ブリ・ド・モー、ラクレットにモン・ドール・・・魅力的なチーズは本当にたくさんありますが、特におすすめしたいのが、この「テット・ド・モアン」。
聞き慣れない名前のチーズですが、チーズ好きの人なら、ひらひらフリル状に美しく削られたチーズを見たことがあるかもしれません。
フランス語で、テット=頭、モワン=修道士。つまり、テット・ド・モアンは「修道士の頭」というなんともユニークな名前。
もともとは「フロマージュ・ド・ベルレー」、つまり、単に“ベルレーのチーズ”と呼ばれていました。それが、こう呼ばれるようになったのには主に2つの説があります。
まず1つ目は、このチーズを削った断面が修道士の頭のトンスラ※に似ているからというもの。日本では、フランシスコ・ザビエル(シャヴィエル)の肖像画のイメージでお馴染みのあの髪型です。フランス革命の時にベルレー修道院を占拠したフランス兵たちが、修道士を揶揄してチーズをこう呼び始めたということです。
そしてもうひとつの説は、修道士の頭数だけ、修道院にこのチーズが保存されていたからとも言われています。
※トンスラ(tōnsūra):カトリック教会の修道士たちが、頭頂部分を丸く剃った髪型のこと。
テット・ド・モアンの話をする時に外せないのが、「ジロール」です。
ひらひらと花びらのようにチーズを薄く削る道具なのですが、削ったチーズの形が、まるで“ジロール”というキノコのようなので、道具自体も「ジロール」と名付けられました。そして、この「ジロール」が、このテット・ド・モアンを一躍有名にした立役者なのです。
専用の道具「ジロール」で、テット・ド・モワンを削ると、本当にジロール茸を思わせる、花びらのような形になります。
薄く削ることで、食べた時の口どけが良く、香りはより華やかで、味はふんわり。
もともとナイフで薄く削って食べていたテット・ド・モアンですが、この削る作業をもっと効率よく美しく、と、地元のニコラ・クレヴォワジエ(Nicolas Crevoisier)氏が考え、特許を取ったのが1981年。意外に新しい道具なのです。
その後、ジロールもチーズも爆発的に販売を伸ばし、今ではスイスの1家庭に1ジロールと言われるくらい、現地では一般的となりました。
テット・ド・モアンの故郷と歴史
このテット・ド・モアンが生まれたのは、800年以上も昔。
先ほど、名前の由来の時にもお伝えしましたが、もともとは「フロマージュ・ド・ベルレー(ベルレーのチーズ)」と呼ばれていました。その“ベルレー”とは、スイス、ジュラ山地にあるベルレー修道院のこと。
修道院生まれのチーズは色々ありますが、このテット・ド・モアンもそのひとつ。1192年の文献に、ベルレー修道院でのチーズ製法についての記述もある、古い歴史を持つチーズです。
なお、現在このベルレー修道院の建物は、病院として使われているそうです。
また、その元ベルレー修道院のすぐ近くには、メゾン・デ・ラ・テット・ド・モワン(Maison de la Tête de Moine)という、テット・ド・モアン博物館があり、ガイドツアーに参加して実際の熟成庫を見学したり、カフェでチーズ料理を楽しんだり、ショップでチーズやジロールを購入したり・・・と楽しむことが出来るので、機会があったらぜひ訪ねて欲しい場所です。
テット・ド・モワンは、どう作る?
現在は修道院ではなく、ジュラ山地のフランス語圏内の10軒にも満たない生産者の手で作られているという、テット・ド・モワン。その製法は厳密に決められています。
まず、他の多くのスイス産チーズと同様に、牛たちの餌は、フレッシュな牧草または干し草で、サイレージ等の発酵飼料は認められていません。
もちろん、集乳地域やチーズ生産地も限定されていますし、集めた乳は搾乳後24時間以内にチーズ製造に使用されなければいけません。使うのは、脱脂をしていない無殺菌の全乳です。
そして熟成期間中は、エピセアと呼ばれる、この地域に自生している樅(もみ)の木の板に置きます。他にもさまざまな規定をクリアして、伝統的な味と製法、品質を守っているのです。
こうして出来上がったテット・ド・モアンには、銀色のホイルに包まれたベーシックな“Classic”と、4ヶ月以上熟成で金色ホイルの“Reserve”、そして、緑色ホイルのオーガニック“Bio”があり、さらに標高1,000m以上で作られたものは、“Montagne”と呼ばれています。
テット・ド・モアンの美味しい食べ方
専用の道具「ジロール」を使ってチーズを削ると、なんといっても見た目が華やか。
人が集まる時は、ジロールにセットしたテット・ド・モアンヌをテーブルに置き、来た方に自由にぐるぐると削ってもらうのは、場が盛り上がり、ホストとしてもとても助かるものです。
削ったものをそのまま並べても、たくさん削って半円ドーム状にこんもりと盛っても、お料理にそえても、まさに花を添えた様にテーブルが一気に華やぎます。
ひらひらと可愛い形に削れるテット・ド・モアンですが、その見た目とは裏腹に、実は味わいは強め。
しっかりとした旨み、塩味、香りは、刺激的に感じることすらありますし、乳脂肪分が高いので乳脂のコクもしっかりとしています。(だから、削る時はなるべく軽い力で薄~くするのをおすすめします)
食べる時は、削ってそのまま摘まむのももちろん良いのですが、ドライフルーツなど、甘みのあるものと一緒にいただくのも美味です。甘味がチーズの強さをまろやかにし、塩味とのバランスも良くなります。
また、地元では贅沢に溶かしてチーズフォンデュという食べ方もありですし、シンプルに薄くスライスされたサラミやハムと合わせても、もちろん美味しくいただけます。
そしてワインを合わせるなら、辛口でしっかりとした白ワインと合わせるのが定番ですが、フルボディの赤ワインでも。チーズに負けない力強さがあった方が良いでしょう。
また、デザートワインと一緒にいただくのは、私の好きな組み合わせです。ぜひお試しください。
テット・ド・モアン(Tête de Moine)のきほん
※他に「テット・ドゥ・モワンヌ」「テテ・ド・モワン」などの表記もあります
- タイプ:セミハードタイプ(非加熱圧搾タイプ)
- 原産地:スイス、ジュラ州とベルン州の一部(ジュラ山地の一部)
- 原料乳:牛乳(無殺菌の全乳)
- 熟成期間:最低75日間(エピセアの棚の上で熟成)
- 形状・重さ:直径10~15㎝、高さは直径の70~100%、重さ700g~2kgの、真ん中がやや膨らんだ円筒形。現在では、ジロールの大きさに合わせた700~900gのものが主流。
協力:スイス政府観光局、Switzerland Cheese Marketing AG
- 小笠原由貴(おがさわら ゆき)
- 恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/
《CHEESE Media 連載》ハイジの国のチーズたち
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#03 トムとジェリーもスイス好き?穴あきチーズ「エメンターラー」
#04 花びらのようなチーズが、修道士の頭から!?「テット・ド・モワン」
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#06 ハイジゆかりの地で作られる、希少な「ベルナー・ホーベルケーゼ」
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