《ハイジの国のチーズたち》かつお節のように削る「スブリンツ」は硬さも味もトップクラス

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ハイジの舞台となったスイスは、国土のほとんどが山地。九州と同じくらいの広さですが、その風土に根ざしたチーズの数は、なんと数百種類にものぼります。

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熟成のなかで、旨みがグッと凝縮した発酵食品は、私たち日本人にも馴染みがあります。かつお節もそんな食品の一つですが、まさに、昔ながらのかつお節のように削り、美味しく食べられてきたチーズが、スイスにあります。

スイス中央部で作られている「スブリンツ」がそれ。超硬質(エクストラハード)とも呼ばれる硬さですが、味わいも“超”がつくほど美味しい山のチーズが今回の主役です。

 

スブリンツってどんなチーズ?

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 スブリンツのいちばんの特徴はその硬さ。

スイスのチーズは、近隣の国へ輸出するため、また冬の間の食糧とするため、保存性が高くて運びやすい、硬く大きなものが多いのですが、中でもこのスブリンツの硬さはトップクラス。エクストラハードタイプと言われるくらいなので、食べる時は専用の鉋(かんな)で薄くスライスしたり、おろしたり、砕いたりしていただきます。

熟成期間はとても長く、最低でも16か月。そして長いものは30か月にもなります。熟成期間が長くなるにしたがって生地は硬く締まり、味わいは濃くなり、“スパイシー”と表現される、ちょっとピリッとしたものになっていきます。

スブリンツの味わいが十分に引き出されるのは、24か月以上の熟成を経たものだとも言われ、チーズ好きには特に好まれています。また、熟成が長くなると黄金色の生地の中には白いアミノ酸の結晶が生まれ、食べるとシャリっとした食感があるのも特徴です。

 

スブリンツの故郷と歴史

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スブリンツが生まれたのは、ジュラ山脈とアルプス山脈に囲まれたスイス中央部。氷河が溶けてできた数々の湖と山々が、美しい景色を生み出す丘陵地です。そんな美しい場所に放牧された牛たちは、思い思いに草花を食んでいます。その牛たちのミルクがスイス産チーズの原料となるのですから、品質が良く美味しいのも頷けます。

スブリンツはとても歴史の古いチーズで、16世紀のベルンの公文書に記述が見られたり、さらに遡ると、ローマ時代の文献にも特徴が一致するチーズがあることから、紀元前から作られていたと言われているヨーロッパ最古のチーズのひとつです。

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スブリンツの名前の由来は、スイス中央 ベルン州のブリエンツ(Brienz)村。イタリア方面へ輸出するチーズは昔から“ブリエンツ村”に集められていたのですが、“ブリエンツ(村から来たチーズ)”というのがイタリアで訛って、“スブリンツ”と呼ばれるようになりました。

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ブリエンツ村

 

スブリンツは、どう作る?

スブリンツの原料となるのは、指定産地の牛の上質なミルク。

牛たちは、夏は放牧地で様々な草花やハーブを、冬はその干し草を食べて風味の良い乳を出してくれます。搾ったミルクは、放牧地のすぐ傍のチーズ工房で、ごくごく新鮮なうちにチーズ作りに使われます。

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スブリンツの名を名乗るためには、乳の産地や牛の餌はもちろん、製法も厳しく決められています。

製造時に、エメンターラーの様にプロピオン酸菌を加えることで独特の風味を生み出していますが、高温での熟成はさせないため、エメンターラーの様な大きな孔(チーズアイ)はできません。

熟成中は布で表面を磨きつつ、縦置きにし、低温・低湿度で16~30か月も原産地で熟成したのち、スブリンツとしての品質に適ったものだけが、スブリンツのラベルを貼って出荷されます。

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現在では、スブリンツを作っているのはわずか32か所の小規模なチーズ工房のみ。日本であまり見かけないのは、そのせいもあるでしょう。

 

スブリンツの美味しい食べ方

最も一般的な食べ方は、スブリンツ専用の鉋(かんな)でかつお節のように薄く削って、そのままパクリ。削ることで、硬いチーズも口どけ良く香りや味も感じやすくなります。

さらに地元の人のようにパンにバターを塗り、その上に削ったスブリンツをクルッと巻いてのせていただくのもおすすめです。

また、スブリンツを削ってサラダにトッピングしたり、おろしてパスタやリゾット、グラタンにかけたり、砕いてワインのお供に摘まんだり…、と、パルミジャーノ・レッジャーノと同様の使い方もできる勝手の良さも魅力です。

専用の鉋(かんな)が無い場合は、野菜用のピーラーやスライサーで代用することもできます。

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口に入れると、ふわっとミルクとバターの香りが抜け、香ばしさとスパイシーさも感じるスブリンツ。そのままでもお料理でも、とても使いやすいチーズですので、ご興味のある方は、ぜひ一度、チーズ専門店で購入してみてくださいね。

 

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※他に「スプリンツ」などの表記もあります

  • タイプ:エクストラハードタイプ(加熱圧搾タイプ)
  • 原産地:スイス中央部(ルツェルン州、シュヴィーツ州、ニートヴァルデン準州、オプヴァルデン準州、ツーク州と、アールガウ州、ベルン州、サンクト・ガレン州の一部)
  • 原料乳:牛乳(無殺菌乳)
  • 熟成期間:最低16か月間
  • 形状・重さ:直径45~65㎝、高さ12~15cm(縁) 14~17㎝(中央)、重さ25~45㎏の円盤形。

 

協力:スイス政府観光局、Switzerland Cheese Marketing AG

yuki ogasawara
小笠原由貴(おがさわら ゆき)
恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/

 

《CHEESE Media 連載》ハイジの国のチーズたち

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