ハイジの舞台となったスイスは、国土のほとんどが山地。九州と同じくらいの広さですが、その風土に根ざしたチーズの数は、なんと数百種類にものぼります。
長い冬を越すための貴重な食料でもあったのが、ハードタイプの、いわゆる山のチーズ。今回は、『トムとジェリー』をはじめ、さまざまところで描かれる”穴あき”チーズのモデル「エメンターラー」にフォーカスをあててご紹介します。
エメンターラーってどんなチーズ?
「チーズの絵を描いて!」と言われたら、多くの人が穴あきチーズを描くのではないでしょうか。その穴あきチーズ、実は「エメンターラー(Emmentaler)」と呼ばれる、スイス生まれの、スイスを代表するチーズがモデルとなっていると言われます。
ネズミが中からひょっこり顔を出しそうな穴ですが、実際には、ネズミはチーズをほとんど食べないのだそう。アニメ『トムとジェリー』の影響も、アルプスのハイジに負けず劣らず、すごい影響力ですね。
日本では、“エメンタール”という名前が定着しているエメンターラー。一番の特徴は、なんといっても“チーズアイ”と呼ばれる大きな孔です。
この孔ができるのは、チーズ製造時に添加される“プロピオン酸菌”という菌の働きによるもの。熟成中にこの菌が出した二酸化炭素がチーズの中に閉じ込められ、直径1~3㎝の大きな孔となるのです。
ところで、丸ごと1個のエメンターラーってご覧になったことはありますか?
スーパーなどで目にするエメンターラーは、カットして真空パックされた状態なので、元の姿を知る機会がまず無いのですが、実は、重さ100kg前後、直径1mほどもある大きな大きな円盤形で、“世界最大のチーズ”とも言われています。
なんと1個作るのに、およそ1200リットルものミルクを必要とするのです。
エメンターラーの生まれ故郷
そんな大きなエメンターラーが生まれたのは、スイス中央部ベルン州。エンメ川が流れるエンメ谷(=エンメンタール)です。つまり、名前の由来は、“エンメ谷の(=エメンターラー)チーズ”ということになります。
ここで12世紀に製法が確立したのが始まりで、今ではスイス中央部から北部にかけた、主にドイツ語圏の広いエリアで作られています。
この辺りは、一面に広がる牧草地帯に昔ながらの農家の家々が点在する丘陵地帯。のどかで美しい田園風景が魅力です。チーズ作りの見学などができるチーズセンター(Emmentaler Schaukaserei Affoltern)もあるので、景色を楽しみながら電車とバスをのんびり乗り継いで訪ねてみるのも良いですね。
エメンターラーは、どう作る?
アルプスの山々を望む美しい田園地方で作られる大きなチーズ、エメンターラー。国を挙げて、乳や乳製品の品質管理を徹底しているので、原料となるミルクにもこだわります。
乳牛たちの飼料は、フレッシュな牧草と干し草が中心。穀物飼料も使えますが、遺伝子組み換えのものは不可です。また、集乳範囲をチーズ製造所から30km以内に絞ることにより、その土地のテロワール(その場所ならではの風土)、そして乳の鮮度も大切にしています。
そんな高品質なミルクは大きな銅鍋に集められ、乳酸菌、そして要となるプロピオン酸菌を加え、レンネット(凝乳酵素)を加えて固めます。固まったミルクをカットして水分を切り、型に入れてプレスして、さらに水分をしっかりと抜きます。
その後、塩水に浸けて加塩、2週間の乾燥ののち、熟成となります。この熟成が特徴的で、まずは19~24℃の高温で3~10週間、そして次は11~14℃の低温でさらに熟成を進める2段階です。この最初の高温熟成がエメンターラーらしさを作る大切な期間。プロピオン酸菌が活発に働いて、大きな気泡ができあがります。
こうして最低4カ月の熟成を経たエメンターラーは、気泡ができた分、ぷっくり膨らんだ形に仕上がるのも特徴です。
エメンターラーの美味しい食べ方
スイス生まれの高品質なエメンターラーですが、食べるなら、まずはスイスを代表する料理、チーズフォンデュに使っていただくのが王道。
加熱するとより美味しくいただけるチーズなので、その他には、バゲットにのせてトーストしたり、ピザに使ったり、オムレツに入れたり、キッシュやタルト、ケーク・サレ、パイやフリッター、ホットサンドなどもおすすめです。
また、半加熱して少しとろけたところも美味なので、ハンバーガーに挟んだり、焼いたお肉にトッピングするのも、ぜひお試しいただきたい食べ方です。
もちろん、そのままでも美味。
ナッツの様な香ばしい香りのあるチーズなので、ナッツと相性の良いはちみつを垂らしていただくのは私の好きな食べ方。また、スライスしてサンドイッチやサラダ、カナッペやオープンサンドはもちろん、細長くおろして、タコスやブリトーなどにも。
他にも国籍、ジャンルを問わず、あらゆる料理に使えるエメンターラー。淡泊でクセのないさっぱりとした味は、何にでも合わせやすく、使い勝手抜群。そんなことも、このチーズを世界的に有名にした一因でしょう。
とても便利なエメンターラー。冷蔵庫に常備しておくと何かと助けてくれるので、ぜひお試しいただきたいチーズです。
ちなみにチーズフォンデュを作る時、エメンターラーだけでは分離しやすかったり、ゴムの様な食感になったりしやすいので、グリュイエールやコンテといった他のチーズとブレンドするのがおすすめです。
(個人的には、フォンデュにするなら“ヴァシュラン・フリブルジョワ”と“レティヴァ”という2種類のスイス産チーズをハーフ&ハーフで作るのが最高!と思っています。)
エメンターラー(Emmentaler)のきほん
※“エメンターラー”と言う呼び方は、原産地ベルン州を中心とした、ドイツ語圏での呼び方。それ以外では“エメンタール”と呼ばれることも多い。
- タイプ:ハードタイプ(加熱圧搾タイプ)
- 原産地:ベルン州を中心とした、スイス中部および北部
- 原料乳:牛乳(無殺菌乳)
- 熟成期間:4ヶ月以上
- 形状・重さ:直径80~100㎝、高さ16~27㎝の車輪形。重さ75~120㎏
協力:スイス政府観光局、Switzerland Cheese Marketing AG
- 小笠原由貴(おがさわら ゆき)
- 恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/
《CHEESE Media 連載》ハイジの国のチーズたち
#01 とろけたチーズをざーっと!「ラクレット」の美味しいストーリー
#03 トムとジェリーもスイス好き?穴あきチーズ「エメンターラー」
#04 花びらのようなチーズが、修道士の頭から!?「テット・ド・モワン」
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#06 ハイジゆかりの地で作られる、希少な「ベルナー・ホーベルケーゼ」
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