明日は、バレンタインデー。
大切な人、お世話になっている人に贈るのはチョコレートが定番ですが、甘いものが苦手な人やお酒好きな人にぜひお薦めしたいのが、チーズ。中でもハート形をしたものはバレンタインにぴったりです。
そしてハート形チーズの代表格が、「ヌーシャテル(Neufchatel)」(ヌフシャテルと表記されることも)。フランス北西部、ノルマンディー地方の北部に位置する、ヌーシャテル・アン・ブレイ地区(Neufchatel en Bray)発祥の白かびタイプのチーズです。
ヌーシャテルって、どんなチーズ?
白かびに覆われたヌーシャテルをカットすると、その内層は詰まっており、白い芯の部分は少しもろっとした感じですが、それ以外はなめらか。舌触りはクリーミーで、ピリッとした刺激味があることも。塩味が効いていて、味の強い印象です。(最近のマイルド志向に合わせ、塩分控えめで仕上げる生産者も増えてきていますが…)
“ヌーシャテル”と聞いて上記のようなイメージが思い浮かぶのは、きっとごく一部のチーズ好きの方のみでしょう。
そんな日本での知名度が低いヌーシャテルですが、同じノルマンディー地方原産であまりにも有名なチーズ、“カマンベール”の陰に隠れてしまったせいもあるかもしれません。
また、カマンベールとヌーシャテルは、同じ地方産の同じ白かびタイプのチーズですが、ヌーシャテルの方が塩味が尖った強い味なので、広くは受け入れられなかったのでしょう。
ハートのチーズ、せつないラブストーリー
知名度ではカマンベールに負けてしまっているヌーシャテルですが、その歴史は18世紀生まれのカマンベールよりもずっと古く、11世紀(1035年)の文献にその記述が見られるほど。フランス最古のチーズのひとつに数えられています。
またヌーシャテルには、樽栓形(bonde:ボンド)、正方形(carre:カレ)、煉瓦形( briquette:ブリケット)と様々な形がありますが、なんといっても有名なのは「クール・ド・ヌーシャテル(Coeur de Neufchatel:Coeur/クールは“ハート”の意)」と呼ばれるハート形。そしてこのハート形が作られるようになったのには逸話があります。
By Blaue Max (Own work) [CC BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)], via Wikimedia Commons
それは500年以上も昔の、フランスとイギリスによる百年戦争(1337‐1453年)時。ヌーシャテル村の酪農場で働く女性が占領軍であるイギリス兵と恋に落ち、ハート形のチーズを作って贈ったのが始まりと言われています。そんなストーリーも、バレンタインに贈るチーズとしてはぴったりですね。
と言っても、このチーズがいちばん美味しくなるのは、夏ごろ。牛たち(ノルマンディー牛)が放牧され、春~夏の青草を食べたミルクで作ったものが美味と言われているので、バレンタイン時期以外にもぜひ食べていただきたいチーズです。
ヌーシャテルの美味しい食べ方
次は、そんなヌーシャテルの食べ方をいくつかご紹介しましょう。
まずはそのままカットして、ドライフルーツや蜂蜜、ナッツとともに。フランスチーズ定番の食べ方ですね。もちろん、パンにのせたり塗ったりしても美味です。
そして次は、ハート形を活かしたトーストで。
合わせるパンは、ヌーシャテルの強さに負けないよう、ライ麦や全粒粉の入った味わい深いパン・ド・カンパーニュなどが良いでしょう。
仕上げにドライフルーツやナッツ、蜂蜜をトッピングすると見た目にも可愛く美味です。いずれにしても、チーズの強めな塩味を中和させる凝縮感のある甘味があると食べやすく、より美味しくいただけます。
ちなみにカマンベールのようにフレッシュなりんごと合わせてみましたが、これはいまいち。ヌーシャテルの刺激的な味ばかりが強調されてしまう組み合わせでした。
そして、ここにワインがあれば完璧!
合わせるのは、ヌーシャテルが若いうちは軽めの赤でも良いですが、熟成が進んだものには、果実の凝縮感のあるしっかりとしたフルボディの赤が良いでしょう。バレンタインデーにはチョコも魅力的ですが、クール・ド・ヌーシャテルと赤ワインのセットもおすすめです。
なお、スーパーなどで“ヌーシャテルチーズ”という名前のクリームチーズのようなものを見かけることがありますが、これは今回ご紹介しているフランス製の伝統的なものとは全くの別物。ご注意ください。
ヌーシャテル(Neufchatel)のきほん
- タイプ:白かびタイプ
- 原産地:フランス、ノルマンディー地方
- 原料:牛乳
- 熟成期間:最低10日間
- 形状:ハート形(Coeur/クール)、樽栓形(Bonde/ボンド)、正方形(Carre/カレ)、煉瓦形(Brick/ブリック)
- 重さ:100~600g
- 小笠原由貴(おがさわら ゆき)
- 恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/