ニンジン畑も広がる東京の町から生まれるミルク、そしてチーズ《増田牧場 前編》

増田牧場の牛たち

「みんな牛さんと牧場主の増田さんに挨拶しましょう!」
「おはようございます!」

小学3年生の社会科見学の日。子供たちの興味津々なまなざしを受けながら、母さん牛たちが「ワシャッワシャッ」と草を食んで反芻しています。

さて、こちらはどこの牧場でしょうか?

答えは、東京都清瀬市。池袋から西武線で30分。清瀬駅で下車し、広がるニンジン畑を横目にバスでたったの6分で到着。静かな住宅地の、お城のごとき瀟洒なコーヒーショップの目の前に、この牧場はあります。

中清戸のバス停

「ニンジン生産量、東京ナンバーワン」という緑地も豊かな清瀬市には、現在牧場が6軒。今回は、東京の町に溶け込んで大都会の胃袋へ牛乳を届ける増田牧場を訪ねました。

 

牛さんの体温は38.5度

増田牧場での社会科見学

昭和39年生まれという風情を感じる牛舎には、生まれて間もない赤ちゃん牛から、お姉さん牛、お母さん牛が40頭ほど。おじいちゃん、おばあちゃん、増田さんご夫妻という4人による家族経営。近隣の小学校の社会科見学や写生会、中学校からは職場体験を受け入れています。

特に、母さん牛の息遣いを間近に見ながら描かれる6年生の写生会の絵は、「モ~!の鳴き声が届きそうな秀作ぞろいですよ」と奥さんの徳子さん。

増田徳子さん

社会科見学が行われたこの日は、搾乳される母さん牛の様子を見学しながら、子供たちの質問が飛んできます。

「牛飼いを始めたのはいつですか?」「戦争の後におじいさんが始めました」

「牛さんの体温は何度ですか?」「38.5度です、夏は暑いんですよ~」

「いろんな顔や、色の牛がいるのはなぜ?」「人間と一緒です、色んな牛がいますね!」

「尻尾を吊っているのは何故ですか?」「かわいそうに思うかもしれないけど、大切なおっぱいをきれいに守ってあげるためです」

「舌の長さは違うの?」「みんな違います、草を巻き取りやすいようにザラザラしています」

清瀬市のこの小学校では、増田牧場さんの牛乳がシチューや牛乳ゼリーに変身して子供たちの給食に出る日があるのだそう。いいね!みんな!

 

3代目はなんと動物アレルギーと牧草アレルギーだった

増田牧場の牛用飼料

3代目の光紀さんは、埼玉の農業大学校畜産科を卒業していますが、なんと皮肉なことに動物アレルギーと牧草アレルギーという、酪農家には致命的ともいえる体質の持ち主でした。ですから25歳で家業を継ぐと決めるまでには、大きな決心が必要だったそうです。

酪農を継ぐと決めて牛舎に入るも、牧草を牛にあげては、ゴホゴホクシャン!の毎日。試行錯誤の結果、たどり着いたのが母さん牛たちにあげるご飯の「オーダーメイド化」でした。

毎週末、TMR(Total Mixed Ration 混合飼料)と呼ばれる増田牧場の牛のためのオーダーメイドご飯が牧場に届きます。中身はルーサン、チモシー、オーツ、スーダン(それぞれ牧草の名前)、しょうゆ糟、ビート、トウモロコシなどを細かくカットして混ぜたもの。

この混ぜご飯のおかげで、牛たちは栄養バランス満点。好きな餌だけ選んで食べることも無くなり、光紀さんのアレルギーも出なくなり、大きな牧草を塊で保存しておく場所もいらないので、一石三鳥。

そして、近くには広い畑があり、こちらではデントコーン(飼料用トウモロコシ)を栽培しています。牧場から出る牛の糞を撒いた畑のデントコーン、大きく育っています。

デントコーン畑

牛一頭一頭の性格が違うように、酪農家も一軒一軒、経営規模もスタイルも違うのが当たり前。ましてや東京の住宅地、様々な工夫を凝らして増田牧場は経営されているのです。

 

搾りたてのミルクが、渋谷で出来たてのフレッシュチーズになる

増田さんご夫妻

増田牧場の生乳は近隣の酪農家のミルクと共に、朝早くSHIBUYA CHEESE STANDに運ばれています。清瀬の母さん牛から預かったお乳が、生み出されて24時間以内に渋谷でフレッシュチーズになっている。なんて新鮮な喜び。母さん牛も「モ~ビックリ!」です。

2016年10月23日に開催された「ジャパンチーズアワード2016」では、SHIBUYA CHEESE STANDのリコッタが金賞&最優秀部門賞のダブル受賞、ブッラータが銀賞、そしてモッツァレラが銅賞に輝きました。

CHEESE STAND 朝フレッシュセット

増田牧場の母さん牛、増田さんファミリーもチーズスタンドと共に受賞したということ。東京の酪農、大都会のフレッシュチーズが、一つの成果を生んだ瞬間でした。

2020年に向けて世界に発信する街、東京で、生き物と暮らし、ミルクを届けてくれる人たちがいること、脈を打つ命の営みがそこにあることを感じる、増田牧場。子牛のつぶらな瞳に癒され、増田さんご夫妻の“牛愛”に触れられます。見学も随時受け入れてくださるそうです。(お問い合わせ・予約は事前に)。

増田牧場

西武線に乗って牧場アイスクリームを食べに清瀬へGO!
母さん牛に会えたならぜひ「金賞おめでとう!」と伝えてあげてください。

増田牧場
〒204-0012 東京都清瀬市中清戸4-870
電話・FAX 042-492-8223

 

美味しいチーズとミルクの背景にある“べっぴん”なストーリー 《増田牧場 後編》

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大和田百合香(おおわだ ゆりか)
2001年より1年数か月にわたり、フランスやイタリアのチーズ産地を訪ね歩き、帰国後「BonBon! FROMAGE!」の名前でチーズを楽しむ会を主催。チーズ王国本店に勤務しつつ、ライフワークである国産ナチュラルチーズの工房を訪ねて北へ南へ。二人の男児育児にも奮闘中。東京農業大学栄養学科卒。CPA認定チーズプロフェッショナル、JSA認定ワインアドバイザー、フランスチーズ鑑評騎士の会シュヴァリエ。

 

牧場から始まるチーズの世界

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美味しい日本のチーズには、日本の酪農とともに生きる素敵なストーリーが。日本各地の牧場、そしてチーズ工房を訪ね、その魅力に迫る連載です。

https://cheese-media.net/?tag=farm

 

mozzarella
出来たてのフレッシュチーズを、FRESH CHEESE Delivery(オンラインショップ)で
東京・渋谷で作られるフレッシュチーズ。出来たての美味しいチーズは、オンラインショップでもお求めいただけます。
http://fcd.cheese-stand.com/

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