5月から夏は“羊をめぐる冒険”の季節。「ペコリーノチーズ」の美味しいストーリー

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イタリア語の“Pecora(ペーコラ/羊)”を由来とするペコリーノは、イタリアにおける羊乳チーズの総称で、フランスでは、“ブルビ”と呼ばれます。今回はそんな羊乳製、ペコリーノチーズについてご紹介します。

 

ペコリーノってどんなチーズ?

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“羊乳製チーズ”と言うと、“臭い、クセが強い”と思われる方も多いかもしれませんが、さにあらず。

羊乳は、牛乳よりもタンパク質、乳脂肪、乳糖などの成分が濃いので、羊乳製のチーズは、実は牛乳製のものよりもミルク感が濃厚で甘みがあり、乳脂肪のコクもしっかりとしていてとてもマイルド。牛乳製のものよりも食べやすいと私は思っています。

「羊乳製チーズはちょっと…」という方にも試しに食べていただくと、「あら、びっくり! 美味しい!!」となることがほとんどです。

 

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イタリアの羊乳製チーズは “ペコリーノ+地名”で名付けられることが多く、「ペコリーノ・ロマーノ」や「ペコリーノ・トスカーノ」、「ペコリーノ・サルド(=サルデーニャのペコリーノ)」や「ペコリーノ・シチリアーノ」といった具合。2016年現在、イタリアのD.O.P.という原産地名称保護制度で認定されている羊乳製チーズだけでも、14種もあります。

バラエティに富んだ、羊のチーズ。そのなかでも、代表的な「ペコリーノ・ロマーノ」と「ペコリーノ・トスカーノ」を中心にご紹介していきます。

 

“イタリア最古”とも言われる、ペコリーノ・ロマーノ

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2000年以上も前からローマ近郊でつくられていた、“イタリア最古”とも言われるハードタイプチーズが、この「ペコリーノ・ロマーノ」。直径約30㎝、高さ約40㎝、重さは30㎏前後にもなるその姿は、堂々とした風格があります。

ペコリーノ・ロマーノと言えば、なんといってもその強い塩味が特徴。保存性を高めるために塩味をかなり強くしてあるので、そのまま食べるというよりは、パスタやサラダにおろしてかけて調味料代わりにするのが主な使い方。有名なパスタ、カルボナーラやアマトリチャーナも、実はこのペコリーノ・ロマーノを使うのが伝統です。

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ところで、このペコリーノ・ロマーノ、“ロマーノ”という言葉が付くくらいですから、もともとはローマ近郊でつくられていました。ところが現在は、ほとんどローマ近郊でつくられていないばかりか、数年前にはその最後の1軒の生産者さんもとうとう無くなってしまったという残念な話を聞いたところ。

では、今はどこで作っているかというと、ローマの沖合約300kmに位置するサルデーニャ島です。牧羊に向いた十分な土地を用意できない都会のローマより、土地や気候風土に恵まれたサルデーニャ島の方がペコリーノ作りに向いているのがその理由です。

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しょっぱいイメージのあったペコリーノ・ロマーノですが、最近の冷蔵技術の進歩と現代人の嗜好に合わせ、塩味は弱くまろやかになっていく傾向です。確かに最近食べたペコリーノ・ロマーノは、やや塩気が強いものの、ワインと一緒にそのままを摘まんでも、羊乳らしい甘味やミルキーさも感じる美味しさでした。

 

「ペコリーノ」という名の白ワインも

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ここで少しチーズから離れますが、「ペコリーノ」という名前のブドウの品種が、イタリアにあるのをご存知でしょうか。その土地に根ざした品種でつくられるワインが、イタリア各地にはたくさんありますが、なんとイタリア中部のアブルッツォ州とマルケ州には、「ペコリーノ」という白ブドウからつくられるワインも。

アドリア海中央部のこの土着品種は、熟すのが早く、糖分や酸もしっかり。9月には収穫ができることから、羊たちの季節移動の時期と重なり、羊が好んで食べていたとか、羊飼いがペコリーノチーズを売り歩きながらこのブドウの苗木も売っていたとか、その名の由来には諸説あるようです。

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羊と深い関わりのある「ペコリーノ・ワイン」。キリリとした酸味とフルーティな香り。茹でた空豆に、塩気の効いたペコリーノ・ロマーノをおろし、オリーブオイルをかけた一品に、合わないわけがありませんね。

 

七変化する、ペコリーノ・トスカーノ

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チーズの話に戻りましょう。「ペコリーノ・トスカーノ」はその名前の通り、イタリア中部のトスカーナ州でつくられる、羊乳製セミハードタイプチーズ。とても古い歴史を持ち、ローマ帝国時代の文献にも記録が残っています。

羊たちが出産を経てミルクを出す3月頃からの春の間に作られており、特に熟成期間が最低20日の“フレスコ”タイプは春を感じるチーズ。むっちりとして、しっとりしなやか、ミルクの甘みたっぷりで優しい味のこのペコリーノ・トスカーノ・フレスコを、トスカーナの人々は、旬の生の空豆と一緒に白ワインと楽しむのが定番です。日本でもこの組み合わせは時々見かけるようになりましたが、日本の空豆はイタリアの物より大きくて硬い品種なので、さっと茹でるか莢ごと焼いて合わせると良いでしょう。

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ペコリーノ・トスカーノには、熟成期間が最低4か月の“スタジオナート”と呼ばれるタイプもあり、よりしっかりしたコクや凝縮した旨みの中に、キノコのような熟成感のある香りを感じるようになります。

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こちらはキャンティなど、トスカーナ産の赤ワインと合わせるのがおすすめです。

 

バラエティに富んだペコリーノたち

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ペコリーノチーズは、イタリアではとても一般的なので、牛乳製チーズと同様に、様々なタイプのものが存在しています。

ちょっとマニアックなものとしては、綿袋に入れて地下の穴の中で熟成した「ペコリーノ・ディ・フォッサ(カチョ・ディ・フォッサとも)」や、サフラン入りの黄色い生地に黒胡椒粒が入った「ピアチェンティヌ エンネーゼ」、また、トリュフ入りのもの、赤唐辛子入りのもの、オリーブオイルで拭きながら熟成させたもの、トマトペーストを表面に塗って熟成させたもの、赤ワインやワインの搾りかすに浸けて熟成させたもの、青かび入りのもの、白かびをまとったもの…など本当にバラエティに富んでいます。

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そのなかから、トスカーナ州で見つけた特徴的なものをいくつかご紹介します。

 

ラベッジョーロ(フレッシュタイプ)

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羊乳を酵素で固めただけ、「カード(凝乳)」と呼ばれる状態の、ごくごくフレッシュなチーズ。杏仁豆腐かとても柔らかい絹ごし豆腐のような、ふるふる、つるん、とした食感。ミルキーで甘味とコクの豊かな羊乳そのものの美味しさを楽しめます。

そのままでも美味しいのですが、ジャムやハチミツをかけるとデザートのよう!羊乳が搾れる期間しか生産できないうえ、出来たてを楽しむチーズなので、日本ではめったにお目にかかれない、幻のチーズです。

 

ブリナータ(白カビタイプ)

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むっちりとした生地に白カビをまとった羊乳製チーズです。羊乳らしい、ミルキーで甘みのある優しい味わい。塩味も控えめでクセがなく、とても食べやすいペコリーノといえるでしょう。

 

ブリッロ(セミハード・バラエティ)

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「ほろ酔い」という意味を持つ羊乳製チーズで、4か月以上熟成させた“ペコリーノ・トスカーノ”をさらに1か月ほど赤ワインに漬けて仕上げたものです。お酒好きの方にはたまらない風味があります。

 

ペコリーノ・トスカーノ・オーロ・アンティコ(セミハード・長期熟成)

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ペコリーノ・トスカーノには、最低1カ月熟成、4か月熟成、6か月熟成など、熟成期間の違うものがありますが、この“オーロ・アンティコ”は、最低6か月という長期熟成のもの。表面にオリーブオイルを塗って熟成するこのチーズはオーロ(Oro/黄金)の名前の通り、表皮が黄金色(麦わら色)に仕上がります。しっかりとした羊乳のコクと旨みは、ワインとよく合いますが、削ってパスタやサラダなどの料理に使うのもおすすめです。

 

5月頃から夏にかけては、まさにペコリーノの旬!キリリと冷えた白ワインのお供に、美味しいペコリーノを楽しんでみませんか。

 

ペコリーノ(Pecorino)のきほん

  • タイプ:ハードタイプ、セミハードタイプを中心に、白カビタイプ、青カビタイプ、ソフトタイプなど様々
  • 主な産地:イタリアの主に中・南部
  • 原料:羊乳
  • 熟成期間:1週間程度のものから、数か月のものまで様々
  • 形状・重さ:直径15~30㎝、重さ1~5㎏程の中型のものが多い

 

yuki ogasawara
小笠原由貴(おがさわら ゆき)
恵比寿でパンと料理の教室「la nature(ラ・ナチュール)」を主宰。チーズのある食卓の幸福感、チーズの美味しさ、バリエーション、唯一無二のチーズが生まれる面白さに惹かれ、教室でも折に触れてその魅力を紹介している。C.P.A.認定チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定ワインエキスパート、シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ。
http://ameblo.jp/naturefoodstyle/

 

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