この放牧ミルクで挑む!チーズに賭ける“厚い”志《新利根協同農学塾農場 後編》

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茨城県で唯一の放牧酪農家、「新利根協同農学塾農場」の上野裕さんのところには花に吸い寄せられるミツバチのごとく、たくさんの人が集まってきます。

放たれた牛に会いに来る人、放牧哲学に魅せられた人、農業畜産関係者、新聞などの取材、もちろん酪農家さんなどを含め、食を育むプロまで、大勢。

「そんな多くの人たちを巻き込んで、この地を一つのユートピアのようにしたい!」上野さんには、そんなポケットにいつも入れている宝物のような想いがありました。

「放牧酪農ミルクをキーワードに、人の集まる場所を作りたい」。今、その想いに共鳴するように、一人の青年が冒険を始めました。

彼の名は西山厚志(にしやま あつし)さん。厚い(=熱い)志、で着々と進めていること、それは、はい、チーズ工房の建設です!

《新利根協同農学塾農場 前編》はこちら

 

牧場極上バーベキューで想いを分かち合う

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動物大好き西山君。若き日に動物に関わる人生を志し、日本大学畜産学科にて研究に明け暮れます。大学を卒業し、北海道は音更町の家畜改良センター十勝牧場に勤務した後、職場を千葉に移して数年、畜産試験場で研究員として働く、という筋金入りの畜産道を進みます。

この時、だれもやっていないことを研究してみようと思い立ち、千葉県内の六次化産業について情報を集め始めると・・・県内にたくさんある、酪農家が営むチーズ工房の人々と出会うことに。「なんて心豊かな人生なんだろう!」と、酪農とチーズに関わる人たちにどんどん魅せられていきます。

その後、那須高原にて牛乳と山羊乳のチーズを製造する高橋雄幸さんに引き寄せられ、大学の先輩のブドウ農家へ・・・などなど、刺激的な再会を経て、「創る人」になりたい、なれるかも、いやなろう、と思い至ったまさにそのタイミングで、上野裕さんと出会います。

ここが人生のターニングポイント。

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牧場で開かれた極上バーベキューで、西山さんのビジョンを聞いた上野さん、「ここで君のチーズを作ってみたらどうだろう」。まだ迷っていた西山さんは背中を押され、千葉県職員を辞して、チーズ作りを学ぶために単身北海道へゴー!となったのでした。

 

放牧ミルクとチーズと人が集う場所を夢見て

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これからチーズ工房を建てる予定の場所は、搾乳所のすぐ横。牛が草を食む放牧場が見え、牛舎もそばにある、この上ないロケーションです。

いずれは、牧場バーベキューの時のようにピザを仕込み、ダッチオーブンで肉を焼き、採れたての野菜でサラダを作って、搾りたての放牧ミルクを飲み、さらに、そこで生まれたチーズが加わる・・・そんな憩いの場所が生まれるかもしれません。なんとワクワク、なんとドキドキ!

西山さんは約1年半、北海道新得町の共働学舎新得農場でチーズ作りの研修に励み、関東へ帰ってきました。以来、日産の工場で期間工をしてお金を貯め、今、チーズ工房を立ち上げるための手続きをしている真っ最中。

今はまだ何もないこの場所に、西山さんのお城が築かれ、これまで体得してきたノウハウを注ぎ込んだ、西山さんならではのチーズが生まれる日もそう遠くありません。

笹ゆき

 

考えるな、感じろ

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「新利根協同農学塾農場」三代目の牧場主、上野裕さんが、放牧酪農に転換したのは2005年のこと。

誰もそんなことはやっていない、自分自身もそれまで牛を牛舎で飼い、買い餌を与え、ミルクの量を気にしてやってきたのだから、それは、大きな、大きな決断でした。

穀物飼料が高騰し、集落では後継者問題で耕作放棄地が出始め、荒れてゆく農地をなんとかしたいという想いもあり、上野さんは思い切って草と土を牛と共に作る放牧を始めたのでした。

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酪農には毎日、仕事があります。

子牛が生まれて、親になるまで育て、種付けをしてお母さんになるまで約2年。お母さんになって初めてお乳を搾れる。

その間にもケガをする牛もいれば、体調を崩す牛が出ることもある。かわいがった牛を屠場に送る日もある。搾乳は朝晩で、晴れを狙って草も刈る。そうして季節は廻ってゆく。

一瞬一瞬の判断、ひらめきがその後の暮らしに響いてくるのが酪農。あの時こうしていたらと思う間もなく、日々の平衡を保つために、目の前の一つひとつを解決してきたのです。

そんな上野さんが、これからの西山さんに一言「考えるな、感じろ」と言いました。「もし迷っても失敗しても、きっとミルクが助けてくれるから」と。

 

牛をめぐる冒険、始まる、そして続く

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牛を飼っている人の多くは牛好きで、上野家は、どこを向いても素敵な牛グッズでいっぱいです。

きっとこれからも、上野さんと牛をめぐる冒険は続き、さらに、新たに“西山号”という船も大海原へ発進。牛グッズ、さらにはチーズグッズも増えていくに違いありません。

この冒険の行く先を、お日様どうぞ照らしてください。食いしん坊みんなで、新利根協同農学塾農場発、放牧ミルクで作ったナチュラルチーズが生まれる瞬間を、心待ちにしています!

 

新利根協同農学塾農場
茨城県稲敷市市崎2381
Tel 0229-79-2024

上野裕さんのブログ
「フィールド・オブ・ドリームス 乳と蜜の流れる地」
http://blog.livedoor.jp/kurumiruku2009/

 

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大和田百合香(おおわだ ゆりか)
2001年より1年数か月にわたり、フランスやイタリアのチーズ産地を訪ね歩き、帰国後「BonBon! FROMAGE!」の名前でチーズを楽しむ会を主催。チーズ王国本店に勤務しつつ、ライフワークである国産ナチュラルチーズの工房を訪ねて北へ南へ。二人の男児育児にも奮闘中。東京農業大学栄養学科卒。CPA認定チーズプロフェッショナル、JSA認定ワインアドバイザー、フランスチーズ鑑評騎士の会シュヴァリエ。

 

牧場から始まるチーズの世界

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美味しい日本のチーズには、日本の酪農とともに生きる素敵なストーリーが。日本各地の牧場、そしてチーズ工房を訪ね、その魅力に迫る連載です。

https://cheese-media.net/?tag=farm

 

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